中国特許法実施細則の一部改正内容に対する説明とコメント
時間: 2024-05-30 弁理士 張英 アクセス数:

 要約:本稿では、新しく改正された中国特許法の実施細則における信義則の導入、新規性喪失の例外規定と証明書類の拡大、優先権の回復、優先権主張の修正と追加、援用補充、および遅延審査請求の改正などの関連規定について簡単に紹介する。


 キーワード:実施細則改正、信義則、新規性喪失の例外規定、優先権の回復、優先権主張の修正と追加、援用補充、遅延審査請求


 2021年6月1日から施行した「中華人民共和国特許法」第4次改正に伴い、改正後の「中華人民共和国特許法実施細則」(以下、改正実施細則)は2023年12月21日に公布された。特許法の第4次改正内容に沿って、実施細則の関連規定も改正され、2024年1月20日から施行しはじめた。今回に改正された条項は多いが、本稿では、主に信義則の導入、新規性喪失の例外規定と証明書類の拡大、優先権の回復、優先権主張の修正と追加、援用補充、および遅延審査請求の変化などの関連規定について簡単に紹介すると思う。


 一、信義則の導入

 新設された特許法第 20 条に対応し、改正実施細則では新たに第 11 条も追加された。その新たに追加された第11条には、「各種特許の出願は信義則に従わなければならず、各種類の特許出願は実際の発明や創造的活動に基づくべきであり、不正行為は許されない。」と規定されている。

 

 この条文は、特許出願が信義則に従うべきであることを明確にし、特許出願をそのイノベーションの原点に戻すために、実際の発明や創造的活動に基づかない不正な特許出願の行為を規制することを目的としている。同時に、出願人が特許出願を提出する際に信義則に従うという明確な要件も提示している。


 これに対応し、改正実施細則の第 50 条(元第 44 条)、第 59 条(元第 53 条)および第 69 条(元第 65 条)も関連条文を導入し、特許、実用新案および意匠の予備審査においても信義則違反について審査することを明確にし、当該条文を拒絶条文と無効条文として導入した。


 このことから、特に国内出願人は、今後特許出願する際に法的枠組みを厳格に遵守する必要があり、その特許出願によって保護される技術案は、出願人の革新的な実践に係る技術でなければならず、出願人の革新的な実践との関連性が高くなければならない。また、研究開発に関する直接の情報は後の証明のために保存する必要がある。


 二、新規性喪失の例外規定と証明書類の拡大

 特許法第24条の改正に対応し、特許法実施細則の第33条(元第30条)も改正された。改正後の実施細則弟3条第2、3項には、「特許法第 24 条第(3)号に規定する学術会議または技術会議とは、国務院の関連主管部門または全国学術団体が主催する学術会議または技術会議、及び国務院の関連管轄部門が認めた国際機関が開催する学術会議または技術会議を指す。


 特許出願に係る発明創造が特許法第 24 条第(2)号又は第(3)号に掲げる事由に該当する場合、出願人は特許出願時にその旨を申告し、特許出願日から 2 ヶ月以内に、関連発明創造が既に展示又は発表されたこと、及びその公開又は発表の日付を証明する書類を提出しなければならない。」と規定されている。


 改正実施細則第 33 条第 2 項には、新規性喪失の例外規定を適用する前述の学術会議または技術会議の範囲は、元の「国務院の関連主管部門または全国学術団体が主催する学術会議または技術会議」から「国務院の関連主管部門または全国学術団体が主催する学術会議または技術会議、及び国務院の関連管轄部門が認めた国際機関が開催する学術会議または技術会議」まで拡大されることが明確した。これは、特に外国出願人にとって大きなメリットであり、新規性喪失の例外規定を適用する学術会議や技術会議の範囲が大幅に拡大された。


 また、改正実施細則第 33 条第 3 項において、出願人が提出する証明書類の要件も大幅に緩和されており、即ち、元の「展示または発表の日付の証明書類(この証明書類は主催者による発行が必要)提出しなければならない。」から、発明が既に展示または発表されたことを証明する書類も認められるようになった。例えば、出展者名簿や会議録などの資料は、展示会や会議に参加した出願人が一般的に入手できるものであるため、出願人の証明書類提出の利便性が大幅に向上した。


 したがって、展示会又は学術会議や技術会議に参加したが新規性喪失の例外規定を享受したい場合、出願人は証明書類の提出がはるかに簡単になった。例えば、出展者名簿や会議録などの資料は、展示会や会議に参加した出願人が一般的に入手できるものであるため、主催者による証明書類の発行が必要なくなる。さらに、昨今の国際交流の拡大に伴い、学会や技術会議の主催者も拡大され、国内企業が海外で会議に参加する会議主催者や、外国企業が海外で会議に参加する会議主催者もさらに拡大されたことは、技術交流や技術進歩に貢献している。


 三、優先権の回復、優先権主張の修正と追加、援用補充の導入

 出願人に有利な原則を徹底して実行するために、改正実施細則には新たに第 36 条、第 128 条、第 37 条および第 45 条が追加された。これら新規定の主な趣旨は、出願人の利益を最大限に保護することである。


 改正実施細則に新たに追加された第36条には、「出願人が特許法第 29 条に定められた期限を超えて同一主題の特許又は実用新案出願を国務院専利行政部門に提出し、正当な理由がある場合には、期限満了日から2ヶ月以内に優先権の回復を請求することができる。」と規定されている。


 また、中国国内段階へ移行する PCT 出願と一致させるために、第 128 条の「国際出願の出願日が優先期間満了日から2月以内であり、国際段階で受理局は既に優先権の回復を承認した場合は、実施細則第36条による回復請求がされたものとみなされる。国際段階において出願人が優先権回復請求を提出しなかったか、又は、提出はしたが受理局が承認しなかった場合は、正当な理由があれば、出願人が国内段階移行日から2ヶ月以内に優先権回復請求を国務院専利行政部門に提出することができる。」が実施細則に追加された。


 つまり、改正実施細則の新設された第 36 条と第 128 条は、優先期間を逃した出願人が優先期間から 14 ヶ月以内に優先権を回復する法的根拠を提供している。また、中国国家知識産権局(以下、「CNIPA」)が指定局と選定局として保留していた優先権回復の事項について、保留しなくした。なお、PCT 国際出願が既に優先権を主張しており、優先期間満了日から 2 ヶ月以内に受理局が国際段階で優先権の回復を承認した場合、出願人は PCT 出願が国内段階に移行する際に、再度回復手続きを行う必要はない。


 上記2条には、優先権回復請求の期限も明確に規定されている。即ち、期限満了日から2ヶ月以内(PCT国際出願の国際段階での回復請求も含む)。言い換えれば、出願人が優先権日から14ヶ月以内に回復を請求する必要がある。但し、例外として、国際段階において出願人が優先権回復請求を提出しなかったか、又は、請求はしたが承認されなかった場合は、国内段階移行日から2ヶ月以内に優先権回復請求をCNIPAに提出することができる。


 優先権回復を請求するには、出願人は期限内に優先権回復申請書を提出し、理由を説明し、権利回復手数料および優先権主張手数料を支払うとともに、先願の出願書類の副本も添付する必要がある(国際局に既に先願の出願書類の副本を提出した場合は除く)。なお、これら2条にいう「正当な理由」又は「理由」は、実施細則第6条第2項に規定する理由と基本的に同様であり、PCT出願の場合には、基本的に「故意でない」理由を適用する。もちろん、「合理的なの注意を払う」という理由であれば、優先権の回復は問題ない。


 新設の第37条には、「特許または実用新案の出願人が優先権を主張する場合、優先日から 16 ヶ月以内、または出願日から4ヶ月以内に、願書に優先権の主張を追加または修正するよう請求することができる。


 つまり、新設の第37条は、優先権の主張において誤りまたは脱落を犯した出願人に対する救済措置を規定している。但し、出願時に既に優先権を主張したことが前提であり、修正または追加された優先権の出願日は本出願の出願日から12ヶ月以内でなければならない。本条には、優先権の修正または追加の期限もさらに規定されている。即ち、優先権日から16ヶ月以内、または出願日から4ヶ月以内で、特許局が公開の準備が整う前である。出願人は、誤った優先権の修正または優先権の追加を請求するには、優先権主張の追加・修正申請書を提出する必要がある。また、優先権の追加を請求する場合、出願人は優先権主張手数料を支払う必要もある。


 同様に、国内段階に移行する PCT 出願については、国内段階移行の手続きと同時に、または国内段階に移行した日から2ヶ月以内に優先権主張の修正を請求することもできる。出願人が出願書類の副本を国際局に提出していない場合、優先権修正請求を提出する際には、修正の根拠として先願の出願書類の副本も添付する必要がある。国内段階に移行した後、新たな優先権の追加が認められない。


 新設の第45条には、「特許または実用新案出願に特許請求の範囲、明細書、あるいは請求項または明細書の一部が欠落しているか、違って提出されているが、出願人が提出日に優先権を主張している場合、提出日から2ヶ月以内、または国務院専利行政部門が指定した期限内に、先願の出願書類を援用することによって補正することができる。補正書類が関連規定に適合している場合、最初に書類を提出する日を出願日とする。」と規定されている。


 上記新設の第45条は、出願書類の項目または一部を欠落または違って提出した出願人に対する救済措置を規定している。即ち、出願人は、元の出願日を保持したまま、優先権出願を援用することによって欠落または誤った部分を補正することができる。但し、欠落または誤って出願された内容が、優先権出願の副本またはその中国語翻訳(先願が外国語出願の場合)に存在し、また、優先権出願の出願日は、本出願の出願日から12ヶ月以内である必要がある。帆本条には、援用補充請求および補足書類提出の期限も明確に規定されている。即ち、提出日から2ヶ月以内、またはCNIPAが指定した期限内に、援用補充を確認する声明を提出し、関連書類を補足で提出する必要がある。


 同様に、PCT 出願について、国際段階で優先権出願を援用することによって欠落したまたは誤って提出した出願書類の項目又は部分を補正して元の出願日を保持した場合、当該PCT 出願が中国国内段階に移行する際にも同様に適用する。つまり、CNIPAが指定局と選定局として、前から保留していた援用補充の事項について、保留しなくした。


 出願人が優先権出願を援用して欠落または誤った部分を補正する場合、最初に特許出願を提出する時に、先願の優先権を主張して援用補充声明を提出すべきである。また、出願人は最初に特許出願を提出した日から2ヶ月以内、またはCNIPAが指定した期限内に、援用補充を確認する声明を提出し、関連書類を補足する必要がある。願書で外国優先権を主張している場合は、元の受理局が発行した先願の出願書類の副本、及びその副本の中国語訳文を提出する必要がある。国内優先権を主張しており、先願の出願番号と出願日を明記している場合は、先願の出願書類の副本が提出されたと見なされる。必要な場合、出願人は出願日から2ヶ月以内、又は通知書の受領日から1ヶ月以内に関連手数料を補足で納付すべきである。


 ここで注意すべきことは、分割出願は実施細則第 45 条の規定を適用することができず、現在の運用レベルでは、新設の第36条/第128条、第37 および第45 条を同時に適用することができない。つまり、第36条と第37条の規定を適用する状況は、第45条の規定を適用することができず、逆の場合も同様である。それにもかかわらず、上記条文の追加は、出願人にとって大きな利点でもあり、出願段階での出願人の誤りに対して複数の救済措置を提供している。


 四、遅延審査請求の改正

 今回の改正では、出願人の意思決定に役に立つ第56条(元50条)の第2項を追加した。即ち、「国務院専利行政部門は特許法第 35 条第 2 項の規定に基づき特許出願を自発的に審査する場合、出願人に通知しなければならない。出願人は特許出願に対して遅延審査請求を提出することができる。


 実施細則第 56 条の新設した第 2 項には、出願人が特許出願の遅延審査請求を提出できることが明確に規定されている。ここでは、発明特許、実用新案、意匠出願のいずれかについては明示されていない。したがって、3 種類の出願は何れも遅延審査を請求できると思われる。


 発明特許の遅延審査請求は、実体審査請求と同時に出願人より行う必要があるが、実体審査請求の日から発効する。延期期間は遅延審査請求の発効日から1年、2年又は3年までできる。実用新案の遅延審査請求は、実用新案出願と同時に出願人より提出する必要がある。延期期間は遅延審査請求の発効日から1年である。意匠の遅延審査請求は、意匠出願と同時に出願人より提出する必要がある。延期期間は月単位で計算され、最長延期期間は遅延審査請求の発効日から 36 ヶ月である。


 遅延期間が満了する前に、出願人は遅延審査請求の取り下げを請求することができ、規定が満たされた場合には、延期期間が終了し、特許出願は係属中となる。必要に応じて、CNIPA は自らの判断で審査を開始し、出願人が請求した遅延審査期間が終了したことを出願人に通知することもある。


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