中国におけるPPH申請時の本出願と対応出願との関係の記述
時間: 2023-08-28 弁理士 王紅艶 アクセス数:

要約

 

 PPH申請において、本出願と対応する出願(以下、対応出願と称す)との関係を記述する必要がある。本文は、各状況下で、どのように本出願と対応出願との関係を記述すべきかについて、実例を挙げて説明する。


 キーワード:PPH、本出願と対応出願との関係、記述


一、はじめに

 

 PPH申請において、本出願と対応出願との関係は記述しなければならない。誤った記述は、PPH申請が通らない要因の一つである。本出願と対応出願との関係をいかに正確かつ完全に記述するかは、PPH業務に触れたばかりの弁理士にとってなかなか難しいことである。本文は、PPH申請フローの規定に基づき、具体例を挙げて、本出願と対応出願との関係を記述するキーポイントを解析することにより、限られた実例を通じて、弁理士が本出願と対応出願との関係を正確かつ完全に記述する方法を柔軟に把握するために役立つことを目的とする。

 

 実務上、PPH申請に係る対応出願は、米国、欧州、日本又は韓国からのものが多いことに鑑み、簡易化のために、以下の紹介では、IP5 PPHフローを元にして、米国、欧州、日本又は韓国からの対応出願を例として詳細に紹介する。本出願と上記以外の国からの対応出願との関係について、これらの例を参照することができる。


二、本出願と対応出願との関係に関する規定

 

 EPO、JPO、KIPO、又はUSPTOという国や地域の審査結果を用いたIP5 PPHフロー(すなわち、通常のIP5 PPHフロー)であっても、EPO、JPO、KIPO、又はUSPTOからのPCT国際段階の審査結果を用いたIP5 PPHフロー(すなわち、PCT IP5 PPHフロー)であっても、本出願と対応出願との関係の規定についてまとめると、本出願と対応出願との優先権日又は出願日のうち、最先の日付が同一であるという条件を満たす必要がある。


 上記規定からわかるように、本出願と対応出願との関係は、以下の4つの条件のうちのいずれかを満たすべきである。

 A.本出願の出願日は、対応出願の出願日と同一である。

 B.本出願の出願日は、対応出願の優先権日と同一である。

 C.本出願の優先権日は、対応出願の出願日と同一である。

 D.本出願の優先権日は、対応出願の優先権日と同一である。

 

 従って、PPHを申請する際に、本出願と対応出願との関係は、上記関係のいずれかに該当するかを明らかに記述しなければならない。

 

 上記条件Bは、本出願が対応出願の優先権であって、かつ、対応出願に基づいて、本出願のPPHを申請する状況に対応するが、実務上、このような状況は、比較的に少ないため、下記の実例には、当該状況に関わるものが省略された(ただし、条件Bの状況下で、本出願と対応出願との関係の記述について、その他の状況と類似するため、その他の状況に関する説明を参照できる)。


三、本出願と対応出願との関係の記述の実例


1.本出願の出願日は、対応出願の出願日と同一である。


例1.本出願の公開情報は、以下のとおりである。


(22)出願日2021.0.1.07

(85)PCT国際出願が国内段階に移行した日

      2022.07.06

(86)PCT国際出願の出願データ

      PCT/IL2021/050028  2021.01.07


対応出願の公開情報は、以下のとおりである。


(21) International Application     Number:

                                PCT/IL2021     /050028

(22) International Filing Date:

                        07 January 2021     (07. 01. 2021)

   

  本出願の公開情報から分かるように、本出願は、PCT/IL2021/050028の中国国内段階に移行した出願であり、その出願日は2021年1月7日である。

 

 対応出願の公開情報からわかるように、対応出願は、PCT/IL2021/050028自体であり、その出願日は、2021年1月7日である。

 

 従って、本出願と対応出願との最先の日付は、同一であり、即ち、それらの出願日は、2021年1月7日である。本出願と対応出願は、PPH申請フローの規定を満たすものであり、それらの関係は、「本出願は、対応出願であるPCT/IL2021/050028の中国国内段階に移行した出願である」と記述ことができる。


2.本出願の優先権日は、対応出願の出願日と同一である。


例2.本出願の公開情報は、以下のとおりである。


(22)出願日2021.11.10

(30)優先権データ

      17/095,154  2020. 11. 11  US

 

対応出願の公開情報は、以下のとおりである。


(21)     Appl. No.: 17/095,154

(22)     Filed: Nov. 11, 2020

 

    本出願の公開情報から分かるように、本出願の出願日は2021年11月10日であって、その優先権はUS17/095,154であり、優先権日は、2020年11月11日である。

 

 対応出願の公開情報からわかるように、対応出願の出願番号は、US17/095,154であり、対応出願の出願日は、2020年11月11日である。

 

 従って、本出願と対応出願とは、2020年11月11日という同一の最先の日付を有している。即ち、本出願の優先権日と対応出願の出願日は、同一である。本出願と対応出願は、PPH申請フローの規定を満たすものであり、それらの関係は、「本出願は、対応出願であるUS17/095,154の優先権を有効的に主張したものである」と記述ことができる。


例3.本出願の公開情報は、以下のとおりである。


(22)出願日2017.11.20

(30)優先権データ

          15/379,126  2016.12.14  US

(85)PCT国際出願が国内段階に移行した日

          2019.06.12

(86)PCT国際出願の出願データ

      PCT/US2017/062613 

   

対応出願の公開情報は、以下のとおりである。


(21)     APPL. No.: 15/379,126

(22)     Field: Dec. 14, 2016

 

    本出願の公開情報から分かるように、本出願の出願日は2017年11月20日であって、その優先権はUS15/379,126であり、優先権日は、2016年12月14日である。本出願は、PCT/US2017/062613の中国国内段階に移行した出願である。

 

 対応出願の公開情報からわかるように、対応出願の出願番号は、US15/379,126であり、その出願日は、2016年12月14日である。

 

 従って、本出願と対応出願とは、2016年12月14日という同一の最先の日付を有している。即ち、本出願の優先権日と対応出願の出願日は、同一である。本出願と対応出願は、PPH申請フローの規定を満たすものであり、それらの関係は、「本出願は、対応出願であるUS15/379,126の優先権を有効的に主張した、PCT国際出願PCT/US2017/062613の中国国内段階に移行した出願である」と記述ことができる。


3.本出願の優先権日は、対応出願の優先権日と同一である。


例4.本出願の公開情報は、以下のとおりである。


(22)出願日2014.12.22

(30)優先権データ

      13198877.6     2023.12.20  EP

   

 対応出願の公開情報は、以下のとおりである。


(21) Appl. No.: 14/571,776

(22) Filed:    Dec. 16, 2014

(65)          Prior Publication Data

  US 2015/0181027 A1  Jun. 25, 2015

(30)   Foreign Application Priority Data

Dec. 20, 2013  (EP)................13198877

 

 本出願の公開情報から分かるように、本出願の出願日は2014年12月22日であって、その優先権はEP13198877.6であり、優先権日は、2013年12月20日である。

 

 対応出願の公開情報からわかるように、対応出願の出願日は2014年12月16日であって、その優先権はEP13198877.6であり、優先権日は、2013年12月20日である。

 

 従って、本出願と対応出願とは、2013年12月20日という同一の最先の日付を有している。即ち、本出願の優先権日と対応出願の優先権日は、同一である。本出願と対応出願は、PPH申請フローの規定を満たすものであり、それらの関係は、「本出願と、対応出願は、いずれも、EP13198877.6の優先権を有効的に主張したものである」と記述ことができる。


例5.本出願の公開情報は、以下のとおりである。


(22)出願日2013.07.01

(30)優先権データ

          61/666,185 2012.06.29  US

(62)分割出願の親出願のデータ

      201380034944.4     2013.07.01

   

対応出願の公開情報は、以下のとおりである。


(21)     Application Number:13735241.5

(22)     Date of filing: 01.07.2013

(30)     Priority: 29.06.2012 US201261666185P

(86)     International application number:

    PCT/EP2013/063853

 

    本出願の公開情報から分かるように、本出願の出願日は2013年7月1日であって、その優先権はUS61/666,185であり、優先権日は、2012年6月29日である。本出願は、出願番号がCN201380034944.4である出願の分割出願である。

 

 対応出願の公開情報からわかるように、対応出願の出願日は2013年7月1日であり、それがPCT/EP2013/063853というPCT国際出願の欧州域内段階に移行した出願である。当該PCT国際出願の優先権はUS201261666185P(すなわち、US US61/666,185)であり、優先権日は、2012年6月29日である。

 

 従って、本出願と対応出願とは、2012年6月29日という同一の最先の日付を有している。即ち、本出願の優先権日と対応出願の優先権日は、同一である。本出願と対応出願は、PPH申請フローの規定を満たすものである。

 

 しかしながら、本出願の上記公開情報からは、本出願は出願番号がCN201380034944.4である出願に基づく分割出願であることしか知られておらず、本出願は出願番号がCN201380034944.4である出願の子出願であるか、孫出願であるかを正確に把握することができない。このことを考慮して、本出願明細書の第1段落における本分割出願と親出願の関係に関する以下の記述を参照することができる。


 [0001]本出願は、国際出願日が2013年7月1日で、国際出願番号がPCT/EP2013/063853で、2014年12月29日に国内段階に移行した、出願番号が201380034944.4であり、発明名称が「ビデオデータストリーム概念技術」である特許出願の分割出願(201910661351.X)の分割出願である。ここで、そのすべての内容を参考できる。

 

 この記述によって、本出願は、出願番号がCN201380034944.4である出願のCN201910661351.Xという分割出願の分割出願であり、出願番号がCN201380034944.4である出願がPCT国際出願であるPCT/EP2013/063853の中国国内段階に移行した出願であることを把握することができる。

 

 従って、本出願と対応出願との対応関係について、「本出願は、出願番号が201910661351.Xである分割出願の分割出願であり、分割出願201910661351.Xは、出願番号が201380034944.4である出願の分割出願であり、201380034944.4である出願は、US61/666、185の優先権を有効的に主張したPCT国際出願PCT/EP2013/063853の中国国内段階に移行した出願であり、対応出願は、PCT国際出願PCT/EP2013/063853の欧州域内段階に移行した出願である。」と記述することができる。


三、分析及び結論

 

 上記の具体的な実例から分かるように、本出願と対応出願との関係についての記述は、本質的に、以下のような各出願の間の関係を明らかにする必要がある。

 (1)本出願と最先の日付を有する出願

 (2)対応出願と最先の日付を有する出願


 例1において、

 

 (1)「本出願と最先の日付を有する出願」という関係には、本出願と最先の日付を有するPCT国際出願PCT/IL2021/050028という2つの出願がある。その間に、本出願はPCT国際出願PCT/IL2021/050028の中国国内段階に移行した出願であるという関係がある。

 

 (2)「対応出願と最先の日付を有する出願」という関係には、対応出願PCT/IL2021/050028のみがある。対応出願と最先の日付を有する出願との間に、対応出願は、PCT国際出願PCT/IL2021/050028であるという関係がある。

 

 ここで、上記(1)、(2)をまとめて、簡単にいうと、本出願と対応出願との間に、本出願は対応出願PCT/IL2021/050028の中国国内段階に移行した出願であるという関係がある。

 

 例2において、

 

 (1)「本出願と最先の日付を有する出願」という関係には、本出願と最先の日付を有する優先権出願US17/095,154という2つの出願がある。その間に、本出願は出願US17/095,154の優先権を有効的に主張したという関係がある。

 

 (2)「対応出願と最先の日付を有する出願」という関係には、対応出願US17/095,154のみがある。対応出願と最先の日付を有する出願との間に、対応出願は、出願US17/095,154であるという関係がある。

 

 ここで、上記(1)、(2)をまとめて、簡単にいうと、本出願と対応出願との間に、本出願は対応出願US17/095,154の優先権を有効的に主張したという関係がある。

 

 例3において、

 

 (1)「本出願と最先の日付を有する出願」という関係には、本出願と、PCT国際出願PCT/US2017/062613と、最先の日付を有する優先権出願US15/379,126という3つの出願がある。その間に、本出願はPCT国際出願PCT/US2017/062613の中国国内段階に移行した出願であり、PCT国際出願PCT/US2017/062613は出願US15/379,126の優先権を有効的に主張したという関係がある。

  

 (2)「対応出願と最先の日付を有する出願」という関係には、対応出願US15/379,126のみがある。対応出願と最先の日付を有する出願との間に、対応出願は、出願US15/379,126であるという関係がある。

  

 ここで、上記(1)、(2)をまとめて、簡単にいうと、本出願と対応出願との間に、本出願は対応出願US15/379,126のPCT国際出願PCT/US2017/062613の中国国内段階に移行した出願を有効的に主張したという関係がある。

 

 例4において、

  

 (1)「本出願と最先の日付を有する出願」という関係には、本出願と最先の日付を有する優先権出願EP13198877.6という2つの出願がある。その間に、本出願は出願EP13198877.6の優先権を有効的に主張したという関係がある。

 

 (2)「対応出願と最先の日付を有する出願」という関係には、対応出願と最先の日付を有する優先権出願EP13198877.6という2つの出願がある。それらの間に、対応出願は、出願EP13198877.6の優先権を有効的に主張したという関係がある。

 

 ここで、上記(1)、(2)をまとめて、簡単にいうと、本出願と対応出願との間に、本出願と対応出願とは、いずれも、EP13198877.6の優先権を有効的に主張したという関係がある。

 

 例5において、

 

 (1)「本出願と最先の日付を有する出願」という関係には、本出願と、本出願の直接親出願201910661351.Xと、当該直接親出願201910661351.Xの親出願201380034944.4と、PCT国際出願PCT/EP2013/063853と、最先の日付を有する優先権出願US61/666,185という5つの出願がある。これら5つの出願の間に、本出願は出願番号が201910661351.Xである分割出願の分割出願で、分割出願201910661351.Xは出願番号が201380034944.4である出願の分割出願で、出願201380034944.4はPCT国際出願PCT/EP2013/063853の中国国内段階に移行した出願で、PCT国際出願PCT/EP2013/063853はUS61/666,185の優先権を有効的に主張したという関係がある。

 

 (2)「対応出願と最先の日付を有する出願」という関係には、対応出願と、PCT国際出願PCT/EP2013/063853と、最先の日付を有する優先権出願US61/666,185という3つの出願がある。それらの間に、対応出願はPCT国際出願PCT/EP2013/063853の欧州域内段階に移行した出願で、PCT国際出願PCT/EP2013/063853は出願US61/666,185の優先権を有効的に主張したという関係がある。

 

 ここで、上記(1)、(2)をまとめて、簡単にいうと、本出願と対応出願との間に、本出願は出願番号が201910661351.Xである分割出願の分割出願で、分割出願201910661351.Xは出願番号が201380034944.4である出願の分割出願で、出願201380034944.4は、US61/666,185の優先権を有効的に主張した、PCT国際出願PCT/EP2013/063853の中国国内段階に移行した出願で、対応出願はPCT国際出願PCT/EP2013/063853の欧州域内段階に移行した出願であるという関係がある。

 

 このように、本出願と対応出願との関係が複雑であるにも関わらず、上記(1)、(2)における各出願間の関係を明らかに把握することができれば、本出願と対応出願との関係を正確かつ完全に記述することができる。

 

 以上、PPH申請実務に関する経験をまとめてみたが、PPH申請に関する業務に従事している弁理士や出願人に対して、すこしでもお役に立てれば、とてもうれしく存じており、本願と対応出願の関係の記述が不完全/不正確であるからPPH申請が拒絶されることを回避することに寄与したいと期待している。

 


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