知的財産権法院がCNIPAの復審決定を審判する判例のご紹介
最近、北京知的財産権法院から行政判決書を受領した。その判決書において、法院はCNIPAが進歩性を有していない理由で下した特許出願拒絶査定を維持する復審決定を支持した。
本件特許出願には、下記の三つの独立クレームがある。「クレーム1 可燃性ガス(例えば、水素)を捕まえる材料に関わる。」、「クレーム5 放射性材料を収容する密閉ケースに関わって、前記密閉ケースにクレーム1に記載の材料が収容されている。」、及び「クレーム14 クレーム1に記載の材料を放射性材料に塗布する用途に関わる。」復審決定において、クレーム1、5及び14が引用文献1と引用文献2との組み合わせに対して進歩性を有していないことは指摘された。
行政判決書において、法院はクレーム1が先行技術に対して進歩性を有していないという復審委員会の見解を同意したが、クレーム5と14については、復審委員会の見解を認めなかった。
当該判決書には、下記の内容が指摘されている。引用文献1は電池に用いる水素吸収材に関わる。一方、本願クレーム5は水素吸収材を含むが、その関わる製品が放射性材料を収容する密閉容器である。引用文献1の応用分野は電池であるため、客観的に「核廃棄物を密閉した容器に蓄積された水素の濃度が高すぎる」という技術的問題があり得ない。よって、当業者は、引用文献1の技術案を見ても、核廃棄物を密閉した容器に蓄積された水素の濃度を下げようと考えるようにならない。したがって、そういう考えがない場合、当然、上記技術的問題を解決するために先行技術文献を検索することもしない。よって、引用文献1を最も近い先行文献とする場合、本願クレーム5が引用文献1と引用文献2との組み合わせに対して進歩性を有していない結論を得られない。同様に、本願クレーム14が引用文献1と引用文献2との組合わせに対して進歩性を有していない結論も得られない。総じて言えば、法院はクレーム5と14が引用文献1と引用文献2との組合わせに対して進歩性を有していないことを指摘した。
しかしながら、復審でクレーム5と14の進歩性に対する認定が誤っているが、法院は、依然とし、当該復審決定を維持した。この判決について、法院は、「本件は拒絶された出願に対する復審であるが、中国特許法には部分的授権制度(一部内容だけに対して登録査定を下す制度)がないため、本願におけるクレーム5、14以外のクレームが進歩性を有していない場合、拒絶査定を維持する復審決定は正しい。」と説明した。
上記判例から見ると、復審おいて、審査官の一部のクレームに対する認定が正しければ、その他のクレームに対する認定が誤ったとしても、その拒絶査定を維持する復審決定は、法院による審判で正しいと看做される。法院のこういう審判方法は時間の節約と審判手続きの簡易化のためかもしれないが、出願人にとって、法院のこういう審判方法を知っておくことが重要である。特に、出願人は拒絶査定維持する復審決定を受けてから後の対応策(訴訟、又は分割出願)を検討する場合、この点を考慮する必要がある。
また、上記の場合では、行政判決書により特許出願が拒絶されたことを変更できないが、当該判決書における一部のクレームに対する有利的な結論により、これらのクレームに対する特許権を求めることができる。例えば、出願人が分割出願によりこれらのクレームに対する保護を求める場合、分割出願の審査において「判決書におけるこれらのクレームに対する有利的な結論」を特許局に提出することができる。
但し、注意すべきことは、判決書において、法院はこれらのクレームが引用された先行技術の組合わせに対して進歩性を有すると認定したが、分割出願においてこれらのクレームが進歩性があると必ず認定されることでもない。例えば、上記判例において、法院はクレーム5と14が引用文献1と引用文献2との組合わせに対して進歩性があると判断したが、分割出願の審査官は必ずクレーム5と14が進歩性があると認定することでもない。審査官はその他の先行技術によりクレーム5と14を否定することができ、更に引用文献2を最も近い先行技術文献として、引用文献2と引用文献1との組合わせによりクレーム5と14の進歩性を否定することもできる。