抄録:日本と異なって、中国では特許審査段階において審査官は2回以上の審査意見通知書を発行することがあるので、早めに権利化され合理的な保護範囲を確保するために、如何に応答するかは、出願人が特に関心を持っている問題である。そこで、本稿では、よく見られる特許審査意見および対応する応答方針を列挙し、具体的に、進歩性評価方式を列挙してその応答方針を検討した。そして、参照として、OA応答に対して全体的な応答策を提示する。
キーワード:中国特許出願、OA応答、進歩性、自発的補正
一、前言
中国の特許実体審査において、審査意見通知書の回数は限定されず、出願人は3回さらにその以上の審査意見通知書を受領することがある。早めに権利化されるために、中国の特許審査意見の特徴を把握し、焦点を当てて応答しなければならない。本稿において、読者に中国の特許出願の中間処理フローの一般的な理解をもってもらうために、主な特許審査意見および対応する応答方針について紹介する。
中国では実体審査段階に移行した後、まず、第1回の特許審査意見通知書、分割出願通知書、または資料提出通知書を受領する可能性がある。分割出願通知書を受領する場合は少なく、通常、請求項間で明確に単一性要件を満たしていなく、審査官が調査を行っていない場合のみに限られる。資料提出通知書を受領する場合も少なく、通常、該資料が未公開のものに限られており、公開された資料については審査官が検索を経て入手できる。
第1回の審査意見通知書に応答した後に、審査官が出願人の意見又は補正した請求項を受け入れると、特許出願は授権される。一方、審査官が特許出願にまだ欠陥があると認めると、授権または拒絶査定まで、第2回の審査意見通知書、さらに、第3回又は第4回の審査意見通知書を発行する。毎回の特許審査意見通知書に応答する際に、補正に対する要求は同一であって、即ち、審査意見に応じて補正することしかできず(存在する欠陥を自発的に補正する場合を除く)、補正内容は元の明細書及び特許請求の範囲の記載を超えてはならない。以下、第1回の審査意見通知書及びその以降の審査意見通知書に対する応答方針を紹介する。
二、OAでよく見られる特許審査意見及び応答方針
第1回の審査意見通知書において、最もよく見られる特許審査意見は新規性や進歩性に関する意見である。公式統計データはないものの、弊社で代理した案件の統計分析によると、第1回の審査意見通知書にて新規性や進歩性に係わっている案件が総数の85%以上を占め、その中でも主に進歩性問題に係わっている。
抵触出願の認定方式が日本と異なる以外(中国の抵触出願の出願人は如何なる事業体または個人である)、特許審査中の新規性の判断標準は日本と大体同様であり、新規性の判断においては人為的な要素の影響が小さい。これに対し、進歩性に関する特許審査意見についての出願人の疑問が多いので、以下で、如何に進歩性に関する審査意見に応答するかについていくつかの提案をする。
第2回およびその以降の特許審査意見通知書において、明確性問題、サポート問題、形式問題が占める割合が増加され、その中で明確性問題も多いので、以下では明確性問題についても説明する。
1)進歩性
《特許法》第22条第3項:進歩性とは既存の技術と比べて当該発明に突出した実質的特徴及び顕著な進歩があり、当該実用新案に実質的特徴及び進歩があることを指す。
《特許審査指南》の規定によると、進歩性は通常「3ステップ法」で判断される。即ち、(1)最も接近する既存技術を確定する;(2)発明の相違点と発明が実際に解決しようとする技術課題を確定する;(3)保護を求める発明が当業者にとって自明なものであるか否かを確定する。
このように、「3ステップ法」で進歩性を評価した特許審査意見に応答する際、3ステップの順で審査意見を分析して論点を見つけることができる。
「3ステップ法」の第1のステップ「(1)最も近似する既存技術を確定する」について、通常、審査官が選択した引用文献が最も近い既存技術であるか否かには疑惑を抱かなく、審査官が選択した引用文献が最も近い既存技術であると認定した上、審査官の第2段階と第3段階の評価が合理であるか否かを分析する。
「3ステップ法」の第2のステップ「(2)発明の相違点と発明が実際に解決しようとする技術課題を確定する」について、まず、相違点についての審査官の認定が正しいかを判断し、技術的特徴を逐一比較して、引用文献の技術的特徴がかかる出願の技術的特徴に相当するか否を判断しなければならない。この場合、審査官がかかる出願の技術的特徴を見逃したり、又は引用文献に開示された特徴がかかる出願の特徴に相当しない場合がある。次に、かかる出願が実際に解決しようとする技術課題についての審査官の認定が正しいか否かを判断する。相違点の認定が変更されると、かかる出願が実際に解決しようとする技術課題も変更される。そして、例えば「耐腐食性を向上させるように塗布層を塗布する」のように、審査官がかかる出願の技術的特徴を技術課題の一部としているか否か、または例えば審査官が「耐腐食性の向上」と認定したものが、実際にはある物質に対する耐腐食性の向上であって、引用文献には当該物質に係わっていないなど、技術課題を抽象化してかかる出願と引用文献が解決しようとする技術課題が同じになっているか否かにも注意しなければならない。
「3ステップ法」の第3のステップ「(3)保護を求める発明が当業者にとって自明なものであるか否かを確定する」について、通常、審査官は、相違点が周知技術である、または他の引用文献に開示されてその作用が同一であるので当業者にとってかかる出願は自明なものであると認定する。ここで、審査官による周知技術の認定が正しいか否かを分析しなければならなく、必要なときは審査官に証拠の提示を要求することができる(大部分の場合、審査官は証拠を提示せずに説明する方式で相違点が周知技術であると堅持する)。または、他の引用文献に当該相違点が開示されているか否か、当該相違点の作用がかかる出願に一致するか否かを分析することもできる。
上記分析によって「3ステップ法」で評価された審査意見に応答することができるが、実際の処理において、上述した3ステップ法で評価されていない進歩性関連特許審査意見もあって、以下、事例を結合して応答方式を説明する。
<事例1>相違点が「引用文献+容易に想到できる」によって開示された。
かかる出願の技術案が、三相電源の内部に間隔をあけて設置された二つの導電体間の電流を測定して短絡を判断することを含む。最も接近する既存技術である引用文献1に三相電源の各二相間の抵抗の変化を測定して短絡を判断する技術が開示され、引用文献2に直流電源と地面との間に電流があるか否かを測定して短絡を判断する技術が開示された。審査官は、引用文献2に開示された内容から、二つの導電体間の電流を測定して短絡を判断することを容易に想到できるので、引用文献1に引用文献2と周知技術を結合して請求項1に係わる発明を得ることができると認定した。
このように特許審査意見、該進歩性評価において、引用文献2と周知技術を引用文献1に結合していなく、周知技術を引用文献2に結合してから、一緒に引用文献1に結合した。このような評価方式には、このような延長によって既存技術の開示範囲を拡張してしまう可能性のある問題が存在する。
このような特許審査意見について、以下のような方面から反論することができる。1)引用文献2には、当業者が二つの導電体間の電流を測定して短絡を判断することを「容易に想到」できるような示唆がない。2)引用文献2に相違点が開示されてない。3)相違点は周知技術でもない。4)引用文献2と引用文献1の結合に障害がある、または結合してもかかる出願の技術案を得ることができない。
<事例2>三つ以上の引用文献の結合
かかる出願の技術案:導電体上の電流を測定し(特徴A)、温度と導電体の抵抗との比較テーブルを調査して、補償された抵抗値を取得し(特徴B)、補償された抵抗値と電流でA/D変換器を制御する(特徴C)。審査官は、引用文献1に導電体に抵抗が並列接続され、該抵抗の電圧を測定して導電体についての電流の補償を取得することが開示されていたので、特徴Aが開示され、引用文献2に温度と導電体の抵抗との比較テーブルによって補償された抵抗値を得ることが開示されていたので、特徴Bが開示され、また引用文献3において抵抗値と参照電流に基いてA/D変換器を制御しているので、特徴Cが開示され、これにより、引用文献1に引用文献2、3を結合してかかる出願の技術案を得ることができると認定した。
このような評価方式には、技術的特徴間の連携を切った問題がある。よって、このような審査意見についての反論要点は、既存技術に、当業者が異なる引用文献に開示された技術的特徴を結合してかかる出願の技術案を得るように示唆するものがあるか否か、つまり複数の引用文献に結合が示唆されたか否かを分析することにある。
<事例3>発明ポイントを周知技術と認定する。
かかる出願において、フランジのパットを簡単に交換するように、隣接するパイプラインを接続する接続フランジ間に隙間を形成するための拡張器が設けられている。引用文献1において、隣接するパイプラインを接続する接続フランジ間にパットが設置され、かかる出願は拡張器を設置した点で引用文献1と異なっている。審査官は、拡張器の構造が既知のものであるので、当該相違点は周知技術であって、かかる出願は進歩性を具備しないと認定した。
このような審査意見について、まず、該拡張器の構造が既存技術に開示された構造であるか否かを分析しなければならない。構造が既知ものであると、既存の拡張器が解決しようとする技術課題または作用がかかる出願と同じであるか否かを分析しなければならなく、つまり、構造が既知のものであっても、既存技術に該拡張器をかかる出願に適用してパットの交換の便宜を図る技術課題を解決することが示唆されたとはいえない。
上述のように、以上の事例及び他の進歩性関連審査意見について、キーポイントは既存技術に対応する示唆があるか否かで、結合の示唆があるとしても、結合に障害があるか否か、結合してかかる出願の技術案を得ることができるか否かを分析しなければならない。
2)明確性問題
原因から分類すると、請求項の明確性問題は、原文による不明確(原文の作成問題と中国特許法の規定に適合しない問題を含む)と、翻訳による不明確との2種類に分けられる。
中国特許法が、例えば請求項における括弧の使用、「約」等の不確定性用語の使用のような詳細な部分で日本の特許法と多くの違いがあるので、OA発行回数を減少し早速授権できるように、中国での出願段階において、中国の現地代理人が提案した補正に従って補正して中国特許法の規定に適合しない問題を解消することができる。
そして、翻訳による不明確の場合、中国現地代理人に優れた技術理解力、日本語レベル、中国語レベルを具備することを要求する一方、作成時に出来る限りあいまいな表現を避けるべきである。
三、応答戦略
1)審査期限
まず、関連規定によると、第1回の審査意見通知書の応答期限は発行日+15日+四ヶ月で、第2回以降の審査意見通知書の応答期限は発行日+15日+二ヶ月である。このような応答期限は延期できるが、1回しか延期できず、必ず応答期限前に延期を申請しなければならなく、延期期間は一ヶ月又は二ヶ月を選択することができ、延期費用はそれぞれ300元、600元である。そして、応答期限(又は延期後の期限)まで応答しないと、SIPOから取り下げられたものとみなす通知書が発行される。当該通知書を受領した二ヶ月内(発行日+15日+二ヶ月)に回復請求書を提出するとともに、応答書類を提出することができ、回復請求の官納費は1000元である。
特許権を早期取得したい出願人はPPH制度を利用することができる。PPHは、中国での出願が公開された後であって第1回の審査意見通知書を受領する前に申請しなければならなく、PPHによると、第1回の審査意見通知書を受領するまでの時間を短縮できるものの、第1回の審査意見通知書を受領した後の審査スピードは普通の出願と同じである。そして、PPH申請時の書類が不合格なものである場合、出願人は補正することができるが、その補正は1回に限り、2回目に提出した書類が依然として不合格であると、PPHを申請することができないことに注意されたい。従って、できる限り形式問題を回避して1回で成功することが重要である。
SIPOの審査官は通常、少なくとも1回の審査意見通知書を発行し、直接に授権する場合は極めて少なく、1%未満である。従って、早期授権するためには、上述したPPHを申請する以外に、通知書の回数を少なくすることが有効な方式である。そこで、出願する時に中国特許法の規定及び審査実践に基いて、出願書類を適切に補正することができ、例えば不明確と指摘される可能性のある記述を補正するなど。そして、新規性や進歩性問題に応答する際、早速の授権と広い保護範囲の確保とを考慮しなければならない。
一方、審査手続きができる限り長くなることを希望する出願人もいるが、この場合、延期、取り下げ後の快復などの方式を利用することができる。重要な案件については、分割出願を提出して最も全面的な保護範囲を取得することができる。
2)補正方式
まず、自発的補正の機会を充分に利用することを提案する。パリ条約ルートで中国に出願した場合、実体審査請求を提出する時と、実体審査段階に移行した後の三ヶ月内との2回の自発的補正機会がある。中国国家段階に移行したPCT出願の場合、中国で出願する時にPCT条約第28/41条の規定に基く補正をさらに含む3回の自発的補正機会がある。実体審査段階で審査意見に応答する際、出願人による補正が制限を受けて、審査意見に対応する補正を行うしかできず、請求項を主動的に追加したり保護範囲を拡張したりすることができないので、自発的補正の機会を利用して、ファミリ出願の審査結果または競争相手の製品の発展状況を参照して、請求項に適切な補正を行うことができる。
中国国家段階に移行したPCT出願の場合、請求項の追加費用は国際公開書類での請求項の数に基いて計算し、10個を超えると、1請求項あたりに150元が追加される。この時、請求項を削除しても費用は低減されない。よって、請求項を削除しないことを提案する。そして、自発的補正を行うとき、請求項を追加することができ、この場合、別途の実体審査費用または授権後の維持年金は不要である。
上述のように、日本と異なって、実体審査段階で審査意見に応答する際、出願人は審査意見に対応する補正を行うことしかできず、第1回の審査意見通知書に対する補正要求とその以降の通知書に対する補正要求は同じで、いずれも元の特許請求の範囲及び明細書の記載の範囲を超えてはいけない。第1回の審査意見通知書において審査官がすべての請求項が新規性または進歩性を具備しないと指摘した場合、審査意見が間違っていると確定できる場合以外は、反論のみではなく、請求項を補正した方がよく、これにより、第1回の審査意見通知書の後に直接に拒絶査定が発行されることが避けられる。第2回の審査意見通知書及びその以降の通知書において審査官が元の審査意見を堅持する時は、補正に特に注意すべきであって、充分に補正するとともに審査官を説得して拒絶査定の発行を避けるべきである。
なお、補正が元の範囲を超えたか否かに対する中国審査官の審査は厳しい。基本的に、出願書類に直接に記載された内容または一義的に確定できる内容を補正依拠とするしかできず、総括して内容、図面中の部材のサイズを測定して得た数値、実験データなどは許可しない。
3)面会
審査意見通知書の表部分の最後に審査官の氏名と電話番号が記載されていて、審査意見に異議があると、審査官に電話することができる。通常、中国の審査官は面会要請を受け付けない。よって、技術問題に関して審査官と意思疎通したい場合、電話を入れることができる。
四、まとめ
以上、中国特許出願のOA応答方式及び戦略について簡単な提案を提示した。総じて、出願人は確保したい保護範囲に基いて、早期に授権したいか授権時間をできる限り延長したいかに応じて、対応する応答方式を選択しなければならない。また、明細書の作成品質が中間の処理品質に影響を及ぼすので、作成時に異なる保護範囲を構成し、次善の策とする複数の技術案についても重要性の順で並べて、中間処理において既存技術の状況及び審査意見に基いて最適を選択することが肝要である。
そして、請求項が限定された後の保護範囲が出願人にとって無意味なものである場合、このようなさらに限定する補正を行わずに、論争し、拒絶査定されても復審手続きを介して所望の保護範囲を取得するために努力することができる。復審手続きは復審委員会の復審審査官によって行われ、通常、3人で合議体を構成する方式で審査し、比較的に客観的である。
参照文献
1.《中国特許法》2008年バージョン
2.《特許審査指南》2010年バージョン