
組成物に関発明専利出願では、実験データがほぼ不可欠であり、その役割は明細書に主張された技術効果を裏付けることにあります。実験データのレイアウトが合理的かどうか、明細書に主張された効果を十分に支持できるかどうかは、専利の審査過程で獲得できる保護範囲に影響を及ぼすだけではなく、専利付与獲得の難易度にも直接関わっています。
この文章では、筆者自身が取り扱った一件の実際の事例を踏まえて、この問題について解析させていただきます。
一、本出願の概要
本案件は一種の接着剤組成物に関し、2つの独立請求項と4つの従属請求項を含んでいます。
請求項1には、組成物における4つの成分の種類が限定され、その中には、下記言及致しました一種の特定の構造のエポキシ樹脂の構造式も限定されています。
従属請求項2から5には、各成分の含有量比率及び反応基の含有量比率関係がさらに限定されています。
独立請求項6は、該接着剤組成物を用いた半導体装置の製造方法を保護しようとしています。
二、審査過程
本出願は、3回の審査意見通知書、1回の拒絶査定及び1回の復審通知書を経て最終的に権利付与されました。その中で、第二回、第三回審査意見通知書及び復審通知書の段階ではそれぞれ特許請求の範囲を補正したが、第一回審査意見通知書応答時及び復審請求提出時には、特許請求の範囲を補正せず、意見陳述のみを行い致しました。
■ 第一回審査意見通知書
審査官は2つの引用文献を引いて、すべての請求項が進歩性なしと認定されました。
第1回審査意見へ応答する時に、特許請求の範囲を補正せず、反論のみを行い致しました。
■ 第二回審査意見通知書
審査官は、新しい引用文献を引かず、依然として、すべての請求項が進歩性なしと指摘されています。同時に、本出願明細書における発明を実施するための形態中の実施例及び比較例の効果データは、糊残り現象の改善が特定構造のエポキシ樹脂によるものであることを十分に証明できず、従って、出願人殿の意見陳述は、説得力が欠けていると認定されています。
第2回審査意見書応答時には、明細書の記載に基づいて、接着剤組成物から形成される接着剤層のガラス転移温度の範囲に相関する特徴を請求項1に加入するとともに、下記の反論を行い致しました。即ち、引用文献1には、該特徴が開示されておらず;引用文献2には、類似するガラス転移温度の範囲が開示されたが、その目的が低温接着性を高めることであり、これに対して、本出願は、ガラス転移温度を調整することによって接着層に高弾性率化を実現させて、剥離時の糊残り現象を改善したものであり、よって、予想できない技術効果を果たしました。
■ 第三回審査意見通知書
審査官は、新しい引用文献を引かず、すべての請求項が進歩性なしと指摘されました。同時に、本願実施例及び比較例のいずれにも接着剤層のガラス転移温度を測定しておらず、選定された温度範囲では本出願においてどのようなより優れた効果が得られるかを証明することはできないと認定されました。
第3回拒絶理由応答時には、請求項1において、接着剤組成物の成分に関する特徴を請求項1にさらに加入して、いずれの引用文献にも該特徴が開示されていないことを主張致しました。
■ 拒絶査定
拒絶査定においては、審査官は、上記加入した特徴が本分野の慣用的技術手段に属し、その効果が当業者の予期できるものであると認定されました。
拒絶査定伝達時には、筆者は、反論理由を提供するとともに、顧客に対して、追加の実験データを提出し、例えば、本出願の実施例におけるエポキシ樹脂を、引用文献1に記載された種類のエポキシ樹脂と取り替えた後に効果試験を行い、本出願の技術効果の優位性を証明することを提案致しました。
復審請求提出時に、特許請求の範囲を補正せず、意見陳述のみを行い、同時に、顧客は、下記の追加実験データを提出されました。
引用文献1の明細書中の実施例に対して、本出願明細書に記載の効果試験方法を用いて再試験したデータ3例。
引用文献2の明細書中の実施例に対して、本出願明細書に記載の効果試験方法を用いて再試験したデータ1例。
本出願実施例中のエポキシ樹脂を引用文献1中のエポキシ樹脂と取り替えた後に、効果試験を再実施したデータ3例。
その結果、すべての7つの追加実験例がいずれも糊残り現象の改善効果が得られなかったことを示しました。
■ 復審通知書
復審通知書では、審査官は、進歩性の問題を再び提起しておらず、請求項に説明書にサポートされていない欠陥が存在することのみを指摘されました。復審通知書応答時に、審査意見に基づいて請求項1に対して適当した補正を行い、本出願は最終的に専利権を獲得しました。
三、まとめ
本事例は、実験データが、出願された発明の進歩性認定にとって替わることのできない役割を有することを示しました。それは、審査官が進歩性を量る時の重要な根拠であるだけではなく、出願人殿が審査意見に反論する有力な証拠でもあります。本事例では、本出願実施例におけるエポキシ樹脂を引用文献1中のエポキシ樹脂と取り替え再試験することにより、糊残り現象を改善する効果が本出願に限定された構造のエポキシ樹脂によるものであることを証明することに成功し、それで、最終的に審査官の納得を得ました。
これに基づいては、実験データを含む専利出願を取り扱う時には、以下の3点に重点的に注目を置くことを建議致します。
(1)請求項に技術特徴を加入する際には、その予期効果が明細書においては推定しにくく、且つ実験データによるサポートが欠けている技術特徴を慎重に使用し、審査官が効果が実証されていないことを理由に受け入れて下さらないことを避けるべきです。
(2)明細書に出願人殿の主張を支持する実験データが欠けている場合には、追加実験データを提出することを考慮できます。弁理士は、出願人殿に、このようなデータを提供し、これによって、論証の説得力を高めることを自発的に提案することもできます。ただし、注意すべきこととして、追加実験データは審査ガイドラインに規定された条件を満たさなければならず、つまり、「追加実験データによって証明された技術効果は、当業者が専利出願の公開された内容から得ることのできるものでなければならない」です。
(3)追加実験データの助けを借りて本出願の技術効果を主張する場合には、引用文献中の実験データと本出願実施例におけるデータの間で対比を行い、本出願明細書内部の実施例同士間でしか対比を行わないことをできるだけ避けることをお勧め致します。
以上の内容では、実験データを含む発明専利出願の取り扱いに有益な参照を提供致すよう望んでおります。


