2023年12月21日に、中国国家知識産権局は、改正された「中華人民共和国特許法実施細則」を公表した。この実施細則の注目すべき点の1つは、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の関連規則と連携するように、優先権の救済手続き、すなわち、優先権の回復、追加、及び修正を導入したことである。
1.優先権の回復
実施細則第36条及び第128条は、それぞれ、パリ条約による発明又は実用新案出願及びPCTルートで中国国内段階に移行した出願における優先権の回復要件を規定する。
パリ条約による発明又は実用新案出願については、実施細則第36条の規定によれば、「出願人は、特許法第29条に規定する期限を過ぎて、国務院特許行政部門に同じ主題について発明又は実用新案出願をする場合、正当な理由があれば、当該期限満了日から2ヶ月以内に優先権の回復を請求することができる。」とされている。
この条項に関して、特許審査指南(2023)はまた、「後願がその先願の出願日から12ヶ月の期限満了後に提出されたものであり、特許庁で公開準備が整う前に、出願人は、当該期限満了日から2ヶ月以内に優先権の回復を請求することができる。」と規定されている。
実施細則のこの条項及び特許審査指南の関連規定によると、パリ条約による発明又は実用新案出願について、出願人が優先権の回復を請求するための時間要件は、1)12ヶ月の優先権期間満了後2ヶ月以内、及び2)特許庁で公開準備が整う前である。したがって、出願人は、実施細則第36条に従って優先権の回復を請求する場合、関連する時間要件を厳密に遵守する必要がある。
PCTルートで中国国内段階に移行した出願については、実施細則第128条の規定によれば、「国際出願日が優先権期間満了後2ヶ月以内であり、国際段階ですでに受理官庁が優先権の回復を認めている場合、本細則第36条の規定に従って優先権の回復を請求したものとみなす。国際段階で出願人が優先権の回復を請求していない、又は優先権の回復請求をしたが受理官庁が認めていない場合、出願人は、正当な理由があれば、移行日から2ヶ月以内に国務院特許行政部門に優先権の回復を請求することができる」とされている。
実施細則のこの条項から、中国は、指定官庁又は選定官庁として中国国内段階に移行したPCT出願の「優先権の回復」を留保しなくなることが分かる。具体的には、国際段階ですでに優先権が回復された出願については、中国国内段階に移行する際に、別途優先権の回復請求を行う必要がない。また、国際段階で出願人が優先権の回復を請求していない、又は優先権の回復請求が受理官庁に認められなかった場合、出願人は、中国国内段階に移行する際に、優先権の回復を請求する機会が与えられ、具体的な時間要件は、移行日から2ヶ月以内である。
上記の条項は、出願人に優先権を回復するための救済策を提供しているが、出願人及び代理人は、優先権期間を厳密に監視し、12ヶ月の優先権期間以内に特許出願を行うよう努めることが推奨され、12ヶ月の優先権期間を逃した場合、回復期間を逃さないように、回復期間以内にできるだけ早く特許出願と回復請求を行い、対応する手数料を支払う必要があることに留意すべきである。
2.優先権の追加及び修正
実施細則第37条の規定によれば、「発明又は実用新案の特許出願人が優先権を主張した場合、優先権日から16ヶ月以内又は出願日から4ヶ月以内に、請求書での優先権主張の追加又は修正を請求することができる。」とされている。
この条項に関して、特許審査指南(2023)はまた、「出願人は、優先権主張の追加又は修正を請求する場合、出願を提出する際に優先権を主張し、所定の期限内に優先権主張の追加又は修正請求書を提出しなければならず、優先権主張の追加を請求する場合、優先権主張料も同時に支払う必要がある。」とされている。
実施細則のこの条項及び特許審査指南の関連規定によると、出願人は、発明又は実用新案出願をする際に、少なくとも1つの優先権を主張している限り、優先権日から16ヶ月以内又は出願日から4ヶ月以内に優先権主張の修正又は追加を請求することができる。しかし、これに先立って、出願人は、特許出願を提出する際に、主張される全ての優先権を明確に記載しなければならず、特許出願の提出後には優先権主張の追加が許可されない。この条項の導入は、出願人にとって非常に有益であることは明らかである。ただし、実施細則の規定によれば、優先権主張「なし」から優先権主張「あり」にすることはできないことに留意されたい。
また、出願人は、実施細則第37条に従って優先権主張の追加又は修正を請求する際に、関連する時間要件及び手数料要件を厳密に遵守する必要がある。
3.注意事項
-実施細則第36条と第37条の規定は併用してはいけない。例えば、すでに実施細則第36条に従って優先権が回復された場合、さらに実施細則第37条に従って優先権主張を追加又は修正することはできない。
-実施細則第36条/第128条、第37条を第45条(援用による補充条項)と同時に適用することはできない。すなわち、実施細則第36条/第128条、第37条に規定する情況に属する場合、実施細則第45条の規定は適用されず、逆の場合も同様である。
実施細則によって導入された上記の条項は、出願人に、優先権期間を延長する、誤った優先権主張を修正する、又は優先権主張を追加するために使用され得る優先権の救済策を提供している。これにもかかわらず、出願人及び代理人は、これらの救済策に過度に依存せず、優先権期間を厳密に監視し、できるだけ12ヶ月の優先権期間以内に特許出願を行うよう努め、その後の不必要な悪影響を回避するために、特許出願時に全ての優先権が正しく主張されるようにすることを推奨する。また、優先権の回復、追加、又は修正が実際に必要とされる場合、要求された期限を逃さないように、早期にアクションをとり、関連料金を適時に支払うことを推奨する。