「十分な開示」と「明細書によるサポート」の相違点について
時間: 2024-08-01 王紅艶 アクセス数:

 特許法制度において、特許明細書の作成と審査は、発明創造を適切に保護するために重要なものであり、その中で「十分な開示」と「明細書によるサポート」という 2 つの重要な概念がよく言及される。これら2 つの概念の間には一定の相関関係があるため、実際の業務において混同される可能性がある。


 したがって、本稿では、「十分な開示」と「明細書によるサポート」という2つの概念の法的根拠、両者の関連性と相違点、及び「十分な開示」と「明細書によるサポート」の審査意見に対する一般的な応答方法から、この 2 つの概念を説明してみる。

 

 両者の関連性と相違点

 特許法は、特許権者に一定期間の独占的権利を与えることで、イノベーションと新技術の公開を促進することを目的としている。特許権者は独占権を取得する代わりに、特許保護期間終了後も他人がその技術を利用できるようにし、社会技術の全体の発展を促進するよう、特許出願時に自社の発明創造を「十分に開示」しなければならない。「明細書によるサポート」とは、特許の保護範囲が発明創造の実際の貢献と一致することを確保し、特許権者が発明創造の実際の貢献を超える保護を受けることを防ぐことを目的としている。これにより、特許権者の独占的権利と、技術を取得して使用する公衆の権利とのバランスが保たれる。


 「十分な開示」と「明細書によるサポート」はどちらも特許の明細書に関連しており、どちらも明細書に記載の発明の説明が十分に詳細であることを要求している。それによって、当業者が発明を理解して実施できるし、合理的な保護範囲が得られる。


 明細書の「十分な開示」は、特許請求の範囲が「明細書によるサポート」かどうかを審査する根拠であり、明細書の十分な開示に基づいてのみ、特許請求の範囲が明細書によるサポートかどうかを審査することに意味がある。


 「十分な開示」は、特許明細書における発明の説明が、発明の技術案を実現するのに十分詳細かつ明確であるかどうかに焦点を当てており、特許明細書に対する特定の要件である。この要件の目的は、発明の技術案の再現性を確保すること、つまり、当業者であれば誰でも、追加の情報や実験を行わずに、発明に開示された情報に基づいて独立して本発明を実施できることを保証することである。明細書で発明が完全に開示されていない場合、発明の実施が妨げられ、特許の有効性に影響する。

 「明細書によるサポート」は、特許請求の範囲と明細書の内容との対応に焦点を当てており、特許請求の範囲のすべての技術的特徴が明細書に記載されていることを要求している。その目的は、特許権者が得られる保護の範囲が発明に対する実際の貢献と一致することを保証し、特許権者が実際の貢献を超える保護を取得することを防ぐことである。


 明細書にサポート要件が欠如する場合、請求項の保護範囲と特許権者の貢献との間に不一致が生じ、特許制度の公平性が損なわれる可能性があり、また、請求項の保護範囲が無効になる可能性もある。


 審査意見に対する一般的な応答方法

 「十分な開示」の審査意見であっても、「明細書によるサポート」の審査意見であっても、まず審査意見が合理的であるかどうかを検証する必要がある。審査意見が不当でるある場合には、特許の解決しようとする技術的課題、使用された技術的手段、達成された技術的効果から反論することができる。


 「十分な開示」に対する審査意見が指摘する問題点が存在する場合には、明細書で十分に開示されていない内容に対応する請求項に記載の技術案を削除することにより、その技術案を請求項から除外し、明細書に十分に開示されている技術案のみを保護するようにすることができる。例えば、技術案 A と技術案 B が明細書に記載されており、技術案 A と技術案 B に対応する 2 組の請求項が特許請求の範囲で保護されているが、審査意見における「明細書に記載の技術案 A が『十分な開示』を満たしていない」という意見が合理的である場合には、技術案Aに対応する請求項を削除することにより、「十分な開示」に関する審査意見に応答ことができる。また、明細書について、開示不十分と指摘された該当箇所についても修正・削除を行うべきである。


 「明細書によるサポート」に関する審査意見が合理的である場合には、明細書の開示内容に基づいて、特許請求の範囲を明細書に十分に開示された範囲に修正することができる。


 例えば、明細書には「高周波電気エネルギーを利用してガスから塵を除去する方法」という実施方法のみが提供されているが、特許請求の範囲では「高周波電気エネルギーで物質に影響を与える方法」の保護を求めている場合、審査意見で指摘されたサポート用件欠如という意見に対し、特許請求の範囲で保護されている「高周波電気エネルギーで物質に影響を与える方法」を「高周波電気エネルギーを利用してガスから塵を除去する方法」に修正することにより、応答することが考えられる。


 「十分な開示」と「明細書によるサポート」という 2 つの概念は相互に補完的であり、技術案を十分に開示している明細書は、請求項に記載のすべての技術案をサポートできるべきであり、一方、明細書によってサポートされている請求項は、明細書に十分に開示されている技術案に基づいて記載する必要がある。


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