8回も無効審判が請求された特許を例として、クレーム作成方法を検討
中国国家知識産権局が公布した2020年十大復審案例の中、8回も無効審判が請求されたある特許が特に注目された。第44977号と第44984号の無効審判請求審査決定において、当該特許は最終に有効であると認定された。
当該特許は共有パワーバンク分野の基礎技術に関わっており、その発明の名称が「モバイル電源のレンタル方法、システム及びレンタル端末」(特許番号:ZL201580000024.X)であり、その特許権者がシンセン来電科技有限公司と北京博合智慧科技有限公司である。
シンセン市雲充吧科技有限公司などは無効審判で、5つの無効証拠(引用文献)を提出し、当該特許の一部の請求項が進歩性を有していないことを主張した。
当該特許の請求項1:
モバイル端末は、第1借入モバイル電源の命令を受信することと、
モバイル端末は、モバイル電源レンタル端末の身分識別番号を受信することと、
クラウドサーバーより、第2借入モバイル電源の命令を送ったユーザがモバイル電源をレンタルする権限があるか否かを判断するよう、モバイル端末は、クラウドサーバーに第2借入モバイル電源の命令を送信し、権限がある場合、クラウドサーバーが、前記身分識別番号に対応するモバイル電源レンタル端末にモバイル電源の在庫状況を確認し、モバイル電源レンタル端末が在庫ありの場合、モバイル電源レンタル端末よりモバイル電源を出すよう、クラウドサーバーが前記身分識別番号に対応するモバイル電源レンタル端末に第3借入モバイル電源の命令を送信し、前記第2借入モバイル電源の命令にモバイル電源レンタル端末の身分識別番号が記載されていることと、
モバイル端末は、クラウドサーバーから送信された処理結果を受信することと、
モバイル端末は、処理結果を示すことと、を含み、
その中、前記クラウドサーバーが前記身分識別番号に対応するモバイル電源レンタル端末に送信する命令には具体的に、クラウドサーバーが事前に保存されたモバイル電源レンタル端末における全てのモバイル電源の状態情報に基づいて第3借入モバイル電源の命令を生成し、前記第3借入モバイル電源の命令にレンタル可能なモバイル電源の身分識別番号が記載されていること、クラウドサーバーが前記身分識別番号に対応するモバイル電源レンタル端末に第3借入モバイル電源の命令を送信することが含まれていることを特徴とするモバイル電源をレンタルする方法
請求項1と無効請求人が提出した証拠1と比べて、区別技術的特徴があると認定されたが、無効請求人は当該区別技術的特徴が当業界の慣用技術手段であると述べた。
合議体は上記無効請求人の意見に同意しなく、次のように意見を述べた。
ビジネス規則を異なる先行技術の応用シーンに適用すると、前記ビジネス規則と前記応用シーンにおける処理過程とが互いにサポートし合い、作用し合い、処理過程での信号の行き方向、情報の制御方式が大きく変わることにより、処理過程も大きく変わる。しかも、このような応用で先行技術と異なる有益な効果を得ることができるため、当該応用は進歩性を有している。
当該事例が特に注目された主な理由は、当該事例にはビジネス方法に関わる微小革新発明創造の進歩性判断の考え方が示されたことである。
なお、当該事例について、筆者は特許出願書類作成と審査意見応答の視点から、次の2点をまとめた。
1.当該特許には六つの独立請求が含まれている。具体的には、請求項1~5にモバイル端末側のモバイル電源のレンタル方法が開示されており、請求項6~10に方法の請求項1~5に対応するシステムが開示されている。請求項11~16にクラウドサーバー側のモバイル電源のレンタル方法が開示されており、請求項17~22に方法の請求項11~22に対応するシステムが開示されている。請求項23~26にモバイル電源側のモバイル電源のレンタル方法が開示されており、請求項27~30に方法の請求項23~26に対応するシステムが開示されている。
当該特許に記載のモバイル電源のレンタル技術は、モバイル端末、クラウドサーバー及びモバイル電源より共同で完成される。なお、当該特許では「一方記載の原則」が使われており、技術案に関わる一方の装置を実施主体として技術的特徴を説明する。具体的に言えば、今後、間接侵害の認定が難しい問題が生じることを回避するために、それぞれモバイル端末、クラウドサーバー、モバイル電源の視点から記載した。更に、当該特許に関わるモバイル電源のレンタル方法はビジネス方法の特許に属するが、その出願書類に応用シーンがモバイル電源のレンタル方法に特定されたため、モバイル電源のレンタルの応用シーンにおいて、出願人は、モバイル電源のレンタルを実現する技術手段、及びソ技術手段による有益な効果を詳しく説明した。
2.当該特許の登録公報から見れば、出願人は請求項12に記載の一部の技術的特徴と請求項13に記載の全ての技術的特徴を独立請求項に加えた。なお、請求項12には「権限あり」と「権限ない」の二つの状況が含まれているので、適切な保護範囲を求めるよう、出願人は権限がある状況を独立請求項に加え、権限がない状況を請求項12に残した。
したがって、出願書類の作成において、複数の実体が共同で完成する技術案について、「一方記載の原則」を使用したほうが良い。また、ビジネス方法の特許について、そのビジネス方法を異なる先行技術に応用されるシーンを強調するために、その具体的な応用シーンを特定し、当該特定された応用シーンで使用された技術手段が達成する技術効果を説明する必要がある。
技術手段に「ある場合」と「ない場合」の二つの状況が存在する技術案について、今後、審査官に不明確であると指摘されることを回避するよう、出願書類でその二つの状況を詳しく記載する必要がある。一方、審査意見に応答する際に、請求項の修正により保護範囲が縮小されすぎることを回避し、適切な保護範囲を保つよう、「ある場合」と「ない場合」の中の一つだけを独立請求項に加えることが考えられる。