三、出願人の対応策
下記、二つの面から「公知常識」であると認定された場合の出願人の対応策を紹介する。
1.実体審査段階の対応策
実体審査で審査意見に応答する際に、出願人は「技術分野-技術課題-技術示唆」の三つの実質性要素から理由を述べるべきである。
次に、引き続き上記の事例(出願番号:2010105884265)で詳しく説明する。
本件の応答書類において、出願人は従属請求項3を請求項1に記入することにより、保護範囲を縮小し、また下記の理由を述べた。
「ケーブル故障を検出する慣用技術として、故障点として固定長ケーブルを地下に配置し、ケーブル故障タイプのテストとポジショニングトレーニングを実施する。但し、上記ケーブルの故障点が変わらず、故障タイプも変わらないため、ケーブル故障の検出に影響をもたらす恐れがある。即ち、先行技術には、便利で高速かつ正確なケーブル障害検出装置とシステムが開示されていない。さらに、引用文献1(以下、D1と略称する)にケーブル故障シミュレーションボックスが開示されているが、そのケーブル故障シミュレーションボックスはコンクリートの上に設置され、箱体の体積が大きいので、ケーブル故障の検出に用いられる場合、検出速度が遅く、操作も不便である。
そして、D1に開示された故障シミュレーションボックスの取り付けボードに設けられている3つの入力電極と3つの出力電極は、実際に、ケーブルの三相コアを接続するために使用されるものである。即ち、D1に開示された故障シミュレーションボックスは、1本のみのケーブルを接続し、1本のみのケーブルに対して故障検出を実施することに限られている。また、D1に開示された技術案も上記先行技術と同様に、『1本の固定されたケーブル』に対して故障検出を実施することである。なお、異なるタイプのケーブル故障を検出しようとする場合、故障シミュレーションボックス内のケーブルを交換する必要がある。これにより、必然的に検出の精度と効率が低下する。また、1本のケーブルにつき3つの入力電極と3つの出力電極を接続する必要があるため、複数のケーブルに対して検出する際に、ボックスに設定される電極の数がさらに多くなる。したがって、明らかに、接続検出により多くの接続時間が掛かり、しかも検出速度が遅くなり、結局、検出の精度が低下する。
よって、出願人はD1に基づいて下記の特徴を容易に想到することができないと述べた。ハブボードに複数の接続端子が配置されており、複数の接続端子は複数組に分けられ、各組には一つの前記第1端子と一つの前記第2端子が含まれ、各組の前記第1端子と前記第2端子の間に接続されたケーブルの長さは複数の長さグレードに分けられている。しかも前記複数のケーブルはそれぞれ前記各組の『第1端子と第2端子の間』に接続されている。」
即ち、出願人は「普遍的に知られている証拠」(例えば、出願書類に提供された背景技術又は上記引用文献1)を結び付て、上記新たに追加さらた区別技術的特徴「複数の接続端子は複数組に分けられ……」が当業界の公衆に「普遍的に知られている」、「ケーブル故障の検出速度が遅い且つ検出結果が精確でない」課題を解決する慣用技術手段ではないことを論証した。
出願人は、既存の文献を普遍的に知られている証拠として、また「技術分野-技術課題-技術示唆」の論理により、最終的に審査官に説得し、特許権を取得した。
総じて言えば、実務上、「技術分野-技術課題-技術示唆」の三つの実質性要素について、下記のような考え方により対応策を講じることができる。
技術分野について、マクロの技術分野を対比することだけではなく、技術応用シーンまで細分化する。各技術分野の高速発展にしたがって、同一の技術分野としても、技術応用シーンが異なれば、公知常識の範囲も異なる。例えば、オンラインゲーム分野において、通常、拡張現実(AR)ゲーム、仮想現実(VR)ゲーム、またはスタンドアロンゲームの異なる応用シーンにより、公知常識に対する理解も異なる。
技術課題について、技術課題は、特許の発明ポイントを考慮した上で提出した先行技術に存在する技術的障壁または技術的欠陥である。即ち、技術課題は、特許文献の区別技術的特徴を確定するために、出願書類における保護を求めようとする技術案が先行技術を改良する手段を引き出すために使用されている。ある区別技術的特徴が公知常識であると証明できる客観的な証拠がない場合に論理付けによる審査結果は主観的であるため、その審査結果により当該区別技術的特徴が公知常識であると認定することはできない。
技術示唆について、公知常識を分析する最も重要なポイントとして、先行技術には下記の技術示唆が示されているか否かを分析することである。即ち、出願書類の特許請求の範囲に記載の技術的特徴を組み合せることにより、保護を求めようとする完全な技術案の示唆(技術手段が存在する示唆)を形成する。言い換えれば、出願人又は弁理士は、保護を求めようとする技術案における各技術的特徴の間の繋がりに最も注目すべきである。例えば、「先行技術における普遍的に開示されている技術内容に基づいて、『結び付ける』ことにより上記技術案の技術示唆を『容易に想到できない』ことを分析する。」この「容易に想到できない」の判断基準は次の2点がある。①結びつけると逆な技術示唆が出るため、当業者が主観的に「結びつけ」を実現することを想到できない。②結びつけた後の技術案は実施できない、又は予期の技術効果を実現できない。
2.出願書類作成の考え方
上記分析結果を踏まえ、審査意見の応答に根拠を提供するために、出願人は最初の出願書類の作り方をよく考えておいたほうが良い。即ち、出願書類の技術案をレイアウトする際に、「技術分野-技術問題―技術示唆」の三つの要素から、請求項に記載の技術的特徴を合理的で適切に限定し、また明細書でなるべく詳細に説明したほうが良い。
次に、明細書を最良にするための考え方を紹介する。
先ず、出願書類で保護を求めようとする発明のポイントの技術的効果の実現を導き出す過程。即ち、明細書に下記の技術閉ロープを含む。技術課題が発生する原因-技術欠陥の分析と分解-解決案の導き出す過程-予期の技術的効果に達成。
そして、発明のポイントに関わる必要な公知常識又は先行技術。即ち、上記欠陥の技術的障壁を克服するために、出願書類の明細書に上記公知常識又は先行技術の欠陥、及び「結び付け難しい」複数の分野の公知常識を記載する。
下記、引き続き上記事例(出願番号:2010105884265)を以って説明する。
当該出願書類の明細書の背景技術には、先行技術の参考方案が明確に記載されているが、各従属請求項の保護する技術案について、明細書の実施例に詳細のプロセスと事例が詳しく説明されなかった。例えば、従属請求項5~8の技術案の「異なるタイプの故障をシミュレートするために、第1放電電極と第2放電電極の間に異なる距離を設定する」について、明細書には簡単に結論だけが記載されており、詳細な実験データ、シミュレーション結果成り立てる論理及び検知過程と検知効果が開示されていない。
出願人は、最初に、「技術分野-技術課題-技術効果」の基準に基づいて、明細書の実施例に詳細な説明と例を記載すれば、技術的特徴が「公知常識」であると認定されたことがなくなると思われる。さらに、上記のようにすれば、審査意見の応答により多くの補正及び抗弁に関わる考え方と依拠を提供することもできるので、進歩性が有していないという誤認による利益の損害を回避することができる。
総じて言えば、出願人は詳細で豊富な実施例を結び付て、肯定的な論理付けで技術案の発明のポイントと当業界公知常識との相違点を説明することにより、出願書類に完全な技術案の実現過程を明示し、公知常識と看做される可能性がある技術手段を抽出し、またその後の審査段階での抗弁に必要な証拠を提供する。
四、結論
特許授権・権利確定において、区別技術的特徴が公知常識であるとの認定と挙証には、通常、主観的な要因が必然的に導入される。しかし、出願人にとって、「公知常識ではない」ことを証明ことは非常に難しいと思われる。
このような状況の下、特許授権・権利確定において「公知常識」であると認定された際の反論可能性を高めるために、予め出願書類に関連説明を記載し、発明のポイントと公知常識との相違点を明確にし、また応答する際に「技術分野-技術課題-技術示唆」の三つの要素を結び付て順次に対比することが考えられる。
参考文献
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