「SCARPANET思嘉帕」商標異議申立の事例からみる悪意の抜け駆け出願の審査実務の近況
時間: 2021-09-06 劉璐璐 アクセス数:

背景

「SCARPA」は1938年に靴の製造地として知られている北イタリアのアゾロ村で創業されました。その職人気質な製品は評判となり、一流登山靴ブランドとして地位を確立しました。

 

「SCARPA」の商標権者であるCALZATURIFICIO S.C.A.R.P.A.S.P.A.(以下S.C.A.R.P.A.社という)は中国において第25類登録第1661407号「商标1.png」、国際登録第1335927号「商标2.png」、国際登録第G1407784号「思嘉帕」などの商標権を保有しています。

 

朱敏芳(以下被異議申立人という)は、第35類について第35650225号「商标3.png」を出願しました。当該商標の中国語の部分はS.C.A.R.P.A.社の先行商標「思嘉帕」と同じで、英語の部分の文字構成もS.C.A.R.P.A.社の先行商標「SCARPA」に類似するため、明らかにS.C.A.R.P.A.社の商標を模倣したものであります。また、被異議申立人を調査したときに、被異議申立人がS.C.A.R.P.A.社の商標を模倣しただけでなく、他社の一定の知名度のある商標への冒認出願・冒認登録も多数行っていることが分かりました。よって、商標法第7条、第30条、第44条第1款違反などを理由として被異議申立人の第35類出願第35650225号「商标3.png」に対し異議を申し立てました。


被異議申立人より出願されたSCARPA関連商標:

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異議申立の審決

国家知識産権局は、被異議申立人の行為は商標法における欺瞞的な手段又はその他の不正な手段によって商標登録を受けたことを禁じるという立法の目的に違反していると認定し、第35650225号「商标3.png」を拒絶する旨の審決を出しました。審決書の概要は下記の通りです。

 

被異議申立商標「商标3.png」の指定役務と異議申立人の引用商標の指定商品は効能、用途、サービスの内容などの特徴において相違があり、類似商品/役務になっていないため、双方商標は類似商品/役務における類似商標に該当せず、併存して使用することは消費者に混同・誤認を生じさせる恐れがないはずです。しかしながら、本件被異議申立商標の以外、被異議申立人は多数の区分において数多くの商標を出願しました。その中、「山凤轩」「LIONS GATE」「绍丰和」など他人の知名商号・商標に同一又は類似する商標もあります。当局は、被異議申立人の前述した行為は他人の商標を複製・模倣した意図があると考え、その行為は正常の商標登録管理秩序の撹乱し、商標法における欺瞞的な手段又はその他の不正な手段によって商標登録を受けたことを禁じるという立法の目的に違反しています。商標法第30条、第35条の規定により、第35650225号「商标3.png」商標を拒絶すると決定しました。


康信コメント 

商標法第44条第1款には「登録された商標が、この法律の第十条、第十一条、第十二条の規定に違反している場合、又は欺瞞的な手段若しくはその他の不正な手段で登録を得た場合は、商標局は当該登録商標の無効宣告を行う。その他の単位又は個人は、商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる」と規定しています。

 

商標登録出願は、誠実信用の原則を遵守しなければならず、商標登録秩序の撹乱、公共利益の侵害、公共資源の不正占用、又はその他の不正な方式による不正利益の獲得などの不正な手段で登録を受けてはなりません。商標法第44条第1款の立法趣旨は、商標登録秩序を維持し、公共利益の侵害、公共資源の不正占用を阻止することです。

 

本事例において、他社の一定の知名度のある商標の冒認商標を含む出願を60件以上を行っていた被異議申立人の行為は正常の商標登録管理秩序の撹乱したと判断されました。審決書には「商標法における欺瞞的な手段又はその他の不正な手段によって商標登録を受けたことを禁じるという立法の目的に違反している」と言及されましたが、商標法第44条第1款の適用範囲は登録商標であるため、審査官が商標法第30条に基づいて被異議申立商標を拒絶しました。

 

筆者が最近代理した異議申立の事件において、「その他の不正な手段」が頻繁に適用されています。商標は明らかに抜け駆け出願であり、且つその出願人が次の事由のいずれかに該当する場合には、「その他の不正な手段」を主張することができます。

(1)係争商標の出願人が登録出願する複数の商標が、他人の高い識別性のある商標或いは高い知名度のある商標と同一又は類似する(同一の商標権者の商標に関し同一でも類似でもない商品又は役務における登録出願が含まれる)

(2)係争商標の出願人が登録出願する複数の商標は、他人の企業名称、社会組織の名称、 一定の影響力のある商品の名称、包装、装飾等の商業標識と同一又は類似の標章に該当する。

(3)係争商標の出願人に、商標の売り込み、又は高額での譲渡が不成立となると先行商標の使用者を相手取って権利侵害訴訟を提起する等の行為があったとき。

 

上記事例は、第三者による商標の抜け駆けの問題について中国商標局は厳格な判断及び対応を示す最近の流れに沿った事例であると考えられ、引き続き動向が注目されます。


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