「最高人民法院による知的財産権民事訴訟の証拠に関する若干規定」の要点解説
2020年11月16日に、最高人民法院は「最高人民法院による知的財産権民事訴訟の証拠に関する若干規定」(以下は、「規定」と略称する)を公布し、2020年11月18日から施行することになった。
「規定」は合計33条があり、主に知的財産権に係わる民事訴訟における証拠に関する問題を解決し、当事者が積極的且つ自発的に立証することを激励する知的財産権民事訴訟制度を構築することを趣旨とする。下記にて、当該「規定」の主要内容を纏めて解説する。
一、立証の原則(第1~2条、第24~26条)
第1条には、誠実信用の原則が規定されている。第2条には、「主張する一方が立証する」の原則が規定されている。また、法院は当事者の主張及び証明されていない事実、当事者の証拠の持つ状況、立証能力などに基づき、関連証拠の提出を求めることができるという内容も規定されている。そして、第24~26条には、立証責任の移転、立証しない場合に不利な結果を負わなければならないことが規定されている。
近年、知的財産権侵害訴訟において、侵害賠償額を確定する際に、大部分は法定の賠償額を採用した。その主な原因は、被疑侵害者が侵害による利益、及び特許権者の実際の損失を計算できないことであった。なお、現在、第2条の規定により、特許権者は立証の義務を履行するだけで良い。例えば、公式ルートで取得できる被疑侵害者のウェブ販売データ、ニュース情報、ウェブ宣伝、年間レポートなどの証拠を提供するだけで良い。一方、被疑侵害者は帳簿などの販売記録を提出しなければ、不利な結果を負わなければならない。この規定は、特許権者が相応する賠償を求めることに有利である。
二、非侵害確認訴訟における原告の立証責任(第5条)
原告は次の内容について、立証しなければなんらない。(一)被告が原告に権利侵害警告又は原告に対する侵害摘発を行ったこと(二)原告が被告に訴権行使催告及び催告の日付、送達日付(三)被告が合理的な期限内に訴訟を提起しなかったこと。
本項では、非侵害確認訴訟を提起するに必要な証拠を明確に記載した。被告企業にとって、権利侵害訴訟中無効審判請求を提起することより、侵害訴訟前に非侵害確認訴訟を提起したほうがより経済的で、快速的且つ便宜的である。
三、国外証拠に対する公証・認証を簡素化した(第8~10条)
次の国外証拠について、公証認証の必要がない。(一)既に発効した人民法院の判決により確認された証拠(二)発効した仲裁機構の裁決により確認された証拠(三)公式又は公開ルートで取得できる公開出版物、特許文献など(四)真実性を証明できるその他の証拠がある証拠。次の場合の国外証拠について、認証を行う必要がない。(一)異議を提起した当事者は証拠の真実性を明確に認めた場合(二)相手方の当事者が証人証言を提出して証拠の真実性を確認し、また証人が偽って証言をすれば処罰を受け入れることを明確に宣誓した場合。
また、国外証拠に対する公証・認証について、2020年5月1日から施行された「最高人民法院による民事訴訟の証拠に係わる若干規定」第16条にも関連内容がある。即ち、国外で形成された公式文書証拠について公証を行わなければならず、身分関係に係わる証拠について公証と認証を行わなければならないと規定されている。
四、証拠保全(第11~18条)
これらの条項には、証拠保全の審査要素、証拠保全が有効的に証拠を固定することに限定する、当事者が証拠保全を妨害する不利な結果を負わなければならず、証拠保全の方式、証拠保全の異議と解除が規定されている。
大型機器、生産方法などに関する特許権について、証拠の取得が困難であるため、証拠保全が特許権者にとって非常に重要である。当該「規定」には、証拠保全について詳しく規定されている。
五、司法鑑定(第19~23条)、証人証言(第27~29条)
これらの条項には、司法鑑定の範囲、効力、鑑定者の選任、鑑定意見の証明力の考慮要素が規定されている。また、証人が出廷の義務(双方当事者が同意し、また法院が出廷しないことを許可した場合は除く)を有し、当事者が関連する専門知識がある者を証人として出廷させることができ、また技術調査官が技術問題について各方当事者に尋問する権利を有することも規定されている。
全体から見ると、当該「規定」は、主に知的財産権権利者が「立証困難」の問題を解決することに注目しており、法により権利者の立証負担を軽減した。これは特許権者にとって非常に有利な規定である。なお、「規定」の全文は下記URLまでご参照ください。http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-272241.html。