「刑民交差」の知財権侵害民事訴訟の審理について
時間: 2024-06-28 アクセス数:

 ーー(2023)最高法知民終2865号


 最近、最高人民法院知的財産法廷は、コンピュータソフトウェアの著作権侵害をめぐる紛争に関する控訴審を結審し、「刑民交差」(刑事法的関係と民事法的関係の両方ともに関与し、相互に直接交差、関連、影響する事件)の関連民事訴訟の審理方法について、明確にした。この事件の二審判決では、人民法院が受理したコンピュータソフトウェアの著作権侵害およびその他の知的財産侵害に関する民事紛争事件について、人民法院は訴訟当事者の意見を十分に聞き、民事事件の審理が、関連する刑事事件の裁判結果に基づく必要があるかどうかを慎重に検討すべきであると指摘した。


 本件経緯

 重慶のP社は、周氏、広州のA社及び蘇州のH社がP社の著作権を保有する、名称が「外部カウンターパルセーションデバイスソフトウェア[略称:ECP.NET] V1.3」であるコンピュータソフトウェア(以下、本件ソフトウェア)を無断で複製・頒布した行為はP社のソフトウェア著作権を侵害したという理由で提訴し、周氏、A社及びH社に「被疑侵害製品の生産・販売などの侵害行為を即座に停止し、在庫及び販売した被疑侵害製品を廃棄し、連帯してP社に1億元の経済的損失と20万元の相当な権利保護費用を支払うこと、及び『中国医療設備』『健康時報』に謝罪声明を掲載すること」を命じるようと一審法院に請求した。


 一審法院は審理を経て、次のことを明らかにした。P社が2021年2月22日に重慶市公安局江北区支局に「刑事摘発書」を提出し、容疑者の周氏、A社、H社の著作権侵害の刑事責任を追及することを請求したことがあり、その関連する事実、理由、当事者が本件と同様であると判明した。重慶市公安局江北区支局は2021年6月30日、上記の事件を捜査するための「立件通知書」を発行した。


 上記を踏まえ、一審法院は、下記のような判決を下した。『最高人民法院による経済紛争事件の審理における経済犯罪容疑に関する若干の問題に関する規定』第11条には、「人民法院が経済紛争として受理した事件は、審理を経て経済紛争事件ではなく経済犯罪容疑があると判断した場合、起訴を棄却し、関連資料を公安機関または検察機関に移送しなければならない。」と規定されている。本件訴訟が受理される前に、重慶市公安局江北区支局は周氏、A社、H社に対する著作権侵害犯罪の疑いで捜査を開始しており、本件審理当時も捜査は継続中だった。当該案件の被害者及び被疑侵害者は本件の原告及び被告と同一であり、事実関係も本件と同一であるから、上記の規定に基づき、P社の起訴を棄却すべきである。本件の判決により起訴が棄却された後、当該紛争が経済犯罪に該当しないと関係当局が判断した場合、または経済犯罪事件が処理後も P社の民事権益が完全に保護されていない場合、P社は今後も別途民事訴訟を提起する可能性がある。総じて言えば、一審法院はP社の起訴を棄却する判決を下した。


 P社は一審の判決を不服として最高人民法院に控訴した。


 最高人民法院は二審で、次のように認定した。人民法院が受理したコンピュータソフトウェアの著作権侵害およびその他の知的財産権侵害事件に関する民事紛争事件については、人民法院は民事事件の審理が関連する刑事事件の結果に基づく必要があるかどうかを慎重に検討すべきである。本件訴訟は、コンピュータソフトウェアの著作権侵害をめぐる紛争で、P社は2022年7月に本件訴訟を提起し、2023年2月に財産保全を申請した。P社は、本件ソフトウェアの著作権登録証明書、被疑侵害ソフトウェア、関連する先行訴訟の判決などの関連証拠を提供し、侵害にあたるかどうかの詳細な対比分析を実施した。本件証拠からみると、本件は重慶市公安局江北区支局による刑事事件の結果に基づかなければならない状況に該当せず、また『最高人民法院による経済紛争事件の審理における経済犯罪容疑に関する若干の問題に関する規定』第11条に規定の「審理を経て経済紛争事件ではなく経済犯罪容疑がある」状況にも該当しない。一審法院は、『最高人民法院による経済紛争事件の審理における経済犯罪容疑に関する若干の問題に関する規定』第11条に基づき、P社の起訴を棄却したことは法の誤った適用であり、修正する必要がある。したがって、一審の判決を取り消し、一審法院に本件を審理しようと命令した。


 本件二審判決により、権利者が提起した知財権侵害民事訴訟は、法定の起訴条件に適合し、本件証拠に基づいて引き続き審理することができ、関連刑事事件の結果に基づかなければならない状況に該当せず、『最高人民法院による経済紛争事件の審理における経済犯罪容疑に関する若干の問題に関する規定』第11条に規定の状況にも該当しない場合、通常、刑事事件が存在するという理由で棄却されるべきではない。


出所:最高人民法院知的財産権法廷


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