特許権が無効宣告された場合の非侵害確認訴訟請求の受理について
時間: 2022-07-29 アクセス数:

———(2020)最高法知民終225号


【裁判要旨】

 特許権無効決定は、下された時点で即座に発効することではない。無効決定が発効するまで、特許権が依然として有効し、権利侵害の警告が依然として権利基礎を有する。被警告者が警告に対して提起した非侵害確認訴訟が、法的提訴条件を満たしている場合、人民法院は受理すべきである。


【案件経緯】

 上訴人の東莞銀行股份有限公司(以下、「東莞銀行」)が提起した特許権非侵害確認訴訟において、関連特許の特許番号がZL200910038860.3、発明の名称が「コンピュータやその他の電子製品において適切に埋め込まれたヘルプをセルフプロビジョニングするための方法とインターフェイス」である(以下、「関連特許」)。


 2019年11月14日に、東莞銀行は、張学志を被告に、張金滔を第三者に、広州知的財産権法院(以下、「一審法院」)に特許権非侵害確認訴訟を提起し、東莞銀行の「東莞銀行モバイル銀行」アプリと「東莞銀行村鎮銀行モバイル銀行」アプリが張学志の関連特許を侵害していないこと、及び張学志が東莞銀行に合理的な権利行使の支出89.01万元を支払うことを判決すると請求した。


 一審法院が審理した後、張学志が関連特許の特許権者であることを確認した。2018年8月31日に、元国家知識産権局特許復審委員会が関連特許に対して、第371130号無効宣告請求審査決定を下し、関連特許が全て無効であると宣告した。


 2019年9月9日に、張学志は東莞銀行に、関連特許の無効決定について既に北京知識産権法院に提訴したという内容を含む警告状を送付した。更に、張学志がアップル社に、東莞銀行のアプリが特許権侵害であるため、当該アプリをApp Storeから取り下げくださいと通報した。


 張学志のアップル社への通報に対して、2019年11月6日に東莞銀行は張学志に催告状を送付し、即時に当該通報を撤回する又は速やかに人民法院に特許権侵害訴訟を提起することを要求した。


 一審法院は、「無効であると宣告された特許権が最初から存在しないと見なされる。したがって、関連特許が全て無効にされたため、東莞銀行提起の非侵害確認訴訟は事実基礎が欠如する。即ち、東莞銀行の提訴は法定受理条件を満たしていない。」と認定した。


 よって、一審法院は東莞銀行の提訴を受理しないと裁定した。その後、東莞銀行は不服として、最高人民法院に上訴した。最高人民法院は2020年6月12日に原審判決を取り消すと裁定し、広州知的財産権法院に本件を受理して立件せよと命じた。


【裁判意見】

 最高人民法院は二審で、「特許権無効決定が下されてから即座に発効することではなく、法律規定の提訴期限内に当事者が訴訟を提起しなかった、或いは当該決定を維持する判決が発効してから、当該決定がはじめて確実に発効する」という意見を述べた。


 具体的な理由は下記のとおりである。

 第一、我国の行政法律規範と特許法律規範の何れにも、特許権無効決定の発効時点を確定できる直接な根拠がない。したがって、特許権無効決定の発効時点は、特許権の特別な性質及び特許権の授権・権利確定行為の目的により判断すべきである。

 特許権は、関連機関により授権される必要がある無形財産権である。特許権の授権・権利確定行為は、特許権を取得又は維持する手続きとして、特許権の確立又は喪失につながる。よって、その目的は、行政強制措置を取ること又は執行力を付与することではなく、発明創造が特許権として保護されるべきかと判断することである。

 行政の対象者及び利害関係者が行政決定に対する救済権利を放棄した又は救済権利が用い尽くされた場合しか、特許権無効決定は不可争力がない。この場合になってから、特許権が有効か否かの判断は、はじめて最終的で確定された状態になる。

 

 よって、特許権無効決定の発効時点は、不可争力が発生する時点である。行政行為が行われてから即座に執行力が発生し、しかも復議と訴訟期間中執行が中止しないという一般的な状況に準じて、特許権無効決定も下されてから即座に発効すると認定すべきではない。

 第二、我国の特許権授権・権利確定手続きは司法救済措置を含む。特許法第46条第2項には、「国務院特許行政部門の特許権無効決定又は特許権権維持の決定を不服とする場合、通知の受領日から3ヶ月以内に人民法院に提訴することができる」と明確に規定されている。


 上記規定により、当事者が特許無効決定を不服とする場合、司法救済措置を取ることができる。司法救済措置は、結果が特許権の法律状態の確認に影響し、特許権授権・権利確定行為の司法分野における評価手続きである。

 したがって、特許法に規定の上記提訴期限内に当事者が提訴しなかった場合、又は審査決定を維持する司法判決が発効した場合しか、特許権授権・権利確定の手続きは確実に終了しない。行政の対象者及び利害関係者が再度に係争しない義務を負う。この場合になってから、はじめて特許権無効決定は不可争力があるようになる。よって、この時点を発効の時点とする。

 第三、特許法47条第1項に、「無効宣告された特許権が最初から存在しないと見なす。」ことが規定されている。特許権が無効宣告された時、特許権保護の技術案が専有された状態から公有になり、社会公衆が当該技術案を自由に実施できるようになる。

 特許権授権・権利確定手続きが司法救済措置を含むため、特許権無効決定が下された時点で即座に発効すると解釈する場合、司法裁判で無効決定が取り消されると、その技術案が専有から公有に、公有からまた専有に繰り返して変化するようになり、また、特許権者の合法的権益の保護と発明創造の応用の促進について紛争が起こす。よって、このような解釈が特許法の立法趣旨に合わない。

 特許権無効決定が発効していない期間、その決定が特許権の有効性を否定する効力はなく、権利者が送付した権利侵害警告状が依然として権利基礎を有する。一方、法的条件を満たせば、警告状による不安な状態を解消するために、被警告者が非侵害確認訴訟を提起することもできる。

 本件の提訴資料によると、張学志が既に北京知的財産権法院に行政訴訟を提起したため、特許権無効決定がまだ発効しておらず、東莞銀行が被警告者として非侵害確認訴訟を提起する権利がある。

 「最高人民法院による特許権侵害紛争案件の審理における法律適用に関わる若干問題の解釈(二)」第2条第1項及び第2項の規定により、「権利者が特許権侵害訴訟において主張する請求項につき、国務院特許行政部門により無効の決定が下された場合には、特許権侵害紛争案件を審理する人民法院は、権利者の当該無効となった請求項に基づく提訴を却下する裁定を下すことができる。前述の請求項を無効とする決定が、発効した行政判決によって取り消された旨を証明する証拠がある場合には、権利者は別途提訴することができる。」

 本条に規定された「先ず却下、別途提訴」の趣旨は、特許権侵害紛争案件の審理効率を向上させ、審理期間が長いことによる影響をなるべく解消することである。ただし、これは司法解釈に規定の特許権者より提起した権利侵害訴訟のみに適用する。


 一方、被警告者が提起した非侵害確認訴訟の目的は、特許権者が送付した警告状による被警告者の不安な状態を解消することである。この二つの制度の目的が異なるため、司法解釈の上記規定「先ず却下、別途提訴」は、被警告者が非侵害確認訴訟を提起する障害にならない。


 人民法院は審理してから、被警告者の行為が特許権侵害に該当しないと認定した場合には、非侵害であると確認する判決を直接に下すことができる。逆に、被警告者の行為が特許権侵害に該当すると認定した場合、訴訟結果が繰り返して変化しないよう、審理を中止して特許権権利確定の行政訴訟の判決を待つことができる。


出所:最高人民法院知的財産権法廷

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