専利権侵害事件における被疑侵害技術案の確認
【裁判要旨】
専利権者が証拠として提出した被疑侵害製品が、被疑侵害者が開示した製品写真と比較して部品が不足している場合、人民法院は、当該部品の構造、設置位置、組み合わせ関係、技術的効果、実際の設置可能性等に基づき、被疑侵害技術案の関連する技術的特徴を認定することができる。
【キーワード】
民事 専利権侵害 技術案
【基本経緯】
フィンランドのある会社は、次のように主張した。
「当社は、発明専利番号20101011****.9、「ふるい分け、破砕又は混合用バケット」(以下、「本件専利」)の専利権者である。Ma社が製造、販売、又は販売の申し出行為を行っているバケットには、本件専利の請求項1に記載された技術的特徴がすべて組み込まれている。Ma社の上記行為は本件専利を侵害しており、法律に基づき、侵害行為の停止、損失の賠償、及び懲罰的損害賠償の支払いが命じられるべきである。劉氏は、Ma社による侵害行為の共謀行為を行ったため、共同侵害を構成し、連帯責任を負うべきである。」
そのため、次のような判決を下すよう請求する。「1. Ma社は、製造、使用、販売、販売の申し出の停止を含むがこれらに限定されない、侵害行為を直ちに停止し、侵害在庫、専用金型、設備を廃棄すること。2. Ma社と劉氏は、フィンランド会社に対し、経済的損失および権利保護のために発生した合理的な費用、合計100万人民元を共同で賠償すること。」
Ma社は、被疑侵害技術案は本件専利の保護範囲外である。仮に侵害が認められたとしても、フィンランド会社が請求した賠償金および合理的な費用は過大である。と抗弁した
劉氏は、被疑侵害製品はMa社が独自に設計したものであり、本件専利を侵害していない。劉氏には共同侵害を犯す主観的意図および客観的行為が存在しておらず、責任を問われるべきではない。と抗弁した。
法院は審査を経て以下のとおり認定した。第二審において、両当事者は技術上の比較対比の意見を提示した。Ma社は、被疑侵害技術案には泥よけなど4つの技術的特徴が欠けていると主張した。第一審法院が証拠として保全していた被疑侵害製品と、フィンランド会社による公証人立会で入手したMa社が展示会やパンフレットで展示した被疑侵害製品の画像との違いは、前者には泥よけが欠けているのに対し、後者には泥よけまたはカバーが付いている点のみであることを全当事者が確認した。これらの相違点を除けば、両製品の残りの技術的特徴は同一であった。フィンランド会社は、顧客から、泥よけがないと作動ドラムなどの部品を3ヶ月ごとに交換する必要があるとのフィードバックがあったと述べた。泥よけを設置すれば、バケットの耐用年数は10年に達する可能性がある。
第一審法院は、Ma社に対し、侵害行為の停止とフィンランド会社の経済的損失および権利保護のための合理的な費用合計36万元の賠償を命じる民事判決を下した。フィンランド会社とMa社はいずれも控訴した。2024年9月27日、最高人民法院は、(2024)最高法知民終550号民事判決を下し、第一審判決を取り消し、Ma社に対し、侵害行為の停止とフィンランド会社への経済的損失551万2,500元および権利保護のための合理的な費用10万元の賠償を命じた。
【判決意見】
法院は発効した判決において次のように判示した、被疑侵害技術案が本件専利の請求項1の技術的特徴を全て有し、その保護範囲内である。Ma社が主張した第三の技術的争点、すなわち、被疑侵害製品には泥よけ及びそれに対応する特徴が欠けている点について、まず、Ma社は、公証写真に写っているカバープレートは泥よけではないと主張しているが、バケットの全体構造及びバケット内での位置から見ると、公証写真に写っているバケットが作動している際に、カバープレートが作業ドラムとホッパーシェルとの間の隙間への破砕物の侵入を防いでいることが分かる。即ち、カバープレートが客観的に泥よけとして機能しており、カバープレートと称していることにより本件専利における泥よけとの実質的な差異を生じさせるわけではない。そして、Ma社は、第一審法院が証拠として保全した被疑侵害製品には泥よけが取り付けられていないと主張しているが、当該証拠はバケットシェルに取り付けネジ穴が設けられており、技術的に泥よけを取り付けることが可能であることを明確に示している。最後に、第一審法院が証拠として保全した被疑侵害製品は、被疑侵害製品の完成品ではない可能性がある。完成品は、Ma社がパンフレットや展示会で展示した選別・破砕バケット製品であるべきである。しかし、Ma社がパンフレットや展示会で展示した選別・破砕バケット製品は、写真でも実物でも泥よけが取り付けられている。さらに、第一審法院が証拠として保全した被疑侵害製品には、バケットフレームプレート(5)に泥よけ(10)を取り付けるための取り付けネジ穴も設けられている。被疑侵害製品は、本件専利の請求項1に記載された泥よけおよび対応する特徴を備えている。
【関連法律】
「中華人民共和国専利法」第11条第1項、第64条第1項及び第71条
「最高人民法院による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第7条
「最高人民法院による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する若干の規定」第15条及び第16条
出所:最高人民法院知識産権法廷