【最高法裁判要旨】技術秘密関連約定と技術秘密構成要件の審査について
【裁判要旨】たとえ、技術秘密の構成、所有権、侵害及び責任について、当事者間で和解契約の締結等により合意に達した場合であっても、その後の紛争訴訟においても、人民法院は、当事者が主張した技術情報が不正競争防止法の意味における技術秘密に該当するかどうかを検討し、判断する必要がある。
【キーワード】民事 契約紛争 技術秘密侵害 和解契約 技術秘密構成要件 秘密性
【基本経緯】杭州B社は、振り子フィーダーの構造に関する技術秘密を所有していると主張した。
杭州Y社、顧氏、胡氏、喬氏はかつて、営業秘密侵害で杭州B社と和解契約を締 結し、侵害を認め、杭州B社の知的財産権を二度と侵害しないこと、侵害が再発した場合、杭州B社に500万元の賠償金を支払うことを約束したことがある。その後、杭州Y社、顧氏、胡氏、喬氏は盗んだ図面を使用して特許を出願した。したがって、杭州B社は四者に対し、連帯して500万元の賠償金と2万元の合理的な支出を命じるよう法院に請求した。
杭州 Y 社、顧氏、胡氏、喬氏は反訴して、杭州 B 社が主張した技術情報は技術秘密ではなく、従来の特許や物理的製品によって既に開示されており、杭州 Y 社が出願した特許は、杭州 B 社が主張した技術情報と異なっているため、杭州 Y 社、顧氏、胡氏、喬氏は契約に違反していない。杭州 B 社は、総額 20 万元の保証金と合意された利息を返還すべきであると主張した。
杭州B社が、杭州Y社、および顧氏、胡氏、喬氏との間で和解合意があれば、杭州B社のその主張した技術情報の秘密性に対する立証責任を免除できると一審法院は判示した。また、杭州 Y 社が出願した特許は、杭州 B 社が主張した技術秘密のうち 2 点を開示したため、契約違反に当たるものである。但し、杭州 Y 社の特許出願行為は顧氏、胡氏、喬氏とは関係がないため、一審法院は次のような一審判決を下した。1.杭州 Y 社は、杭州 B 社に賠償金400 万元を支払う。2. 杭州 B 社は、顧氏の保証金50,000 人民元を返還し、銀行の 3 年定期預金金利に基づいて、2017 年 7 月 1 日からその金額が実際に返済される日までの期間に利息を支払う。3. 杭州 B 社は、胡氏の保証金50,000人民元を返還し、銀行の 3 年定期預金金利に基づいて、2017 年 7 月 1 日から実際の返済日までの期間に利息を支払う。4. 杭州 B 社は喬氏の報奨金50,000人民元を返還し、銀行の 3 年定期預金金利に基づいて、2017 年 7 月 1 日からその金額が実際に返済される日までの期間に利息を支払う。5. 杭州 B 社のその他の主張を棄却する。6. 杭州 Y 社の反訴を棄却する。杭州Y社はこれを不服として控訴した。最高人民法院は、2023 年 6 月 5 日に(2021 年)最高法知民終1530 号民事判決を下し、控訴を棄却し、元判決を維持した。
【裁判意見】法院の発効した判決には次のような意見が述べられた。本件は契約紛争であるが、両当事者間の紛争のきっかけとなった法的関係は、杭州Y会社等が杭州B会社の技術秘密を侵害したか否か、及び杭州 Y 会社等が双方の和解契約に従って契約違反の責任を負うべきか否かということである。したがって、本件の先に解決する必要な争点は、杭州 Y 会社に杭州 B 会社の技術秘密を開示した侵害行為があるか否かということである。
不正競争防止法で保護される技術秘密は、「公衆に知られていないこと」「商業的価値があること」「権利者が相応の秘密保持措置を講じていること」の3つの要素を具備する必要がある。審査をしたところ、十分に次のような判決意見を下すことができる。杭州 B 社の技術情報を搭載した振り子フィーダーは市場で流通されていないが、同社のインフレータブル保護フィルムの生産工程で梱包効率を向上させ、梱包コストを削減できる。これにより、杭州B社 は、杭州Y 社を含む同業他社との競争で優位に立つことができる。したがって、杭州 B 社が主張した技術情報には商業的価値がある。また、杭州 B 社は、従業員と秘密保持契約を締結することにより、技術情報を含む図面に対する秘密保持を要求した。この方法は、同社の技術情報に対する秘密保持措置となる。また、杭州B社が保護を求めたドラムの設置位置やスイングプレートの往復運動を実現するクランクとコンロッドの具体的な接続構造に関する技術内容は先行特許に開示されていない。公衆は先行特許文献を検索してもこのことを知ることはできない。したがって、杭州 B 社が主張した上記 2 つの技術情報は、不正競争防止法上の技術秘密に該当する。
杭州 Y 社が出願した本件特許には、ドラムの設置位置、クランクとコンロッドの具体的な接続構造に関する杭州 B 社の所有している技術秘密が開示されている。したがって、一審判決は、杭州Y社の上記開示行為は和解契約違反にあたり、契約違反責任を負うのは不適切ではないと判断した。
【関連法律】
2018年月1日から施行された『中華人民共和国不正競争防止法』の第9条
1999年10月1日から施行された『中華人民共和国契約法』の第8条
出所:最高人民法院知的財産権法廷