引用商標所有者の登録抹消がその後の他者による商標登録出願に及ぼす影響
時間: 2024-03-01 常丹 アクセス数:

 国家知識産権局の胡文輝副局長の紹介によると、2023年上半期に登録された商標は合計201.8万件だった。 2023年6月末時点で、我が国の有効登録商標は4423. 5万件に達し、前年比9.1%増加した。しかし、有効登録件数が年々増加するにつれ、商標登録の難易度や遊休商標の問題が著しくなってきている。

 

 一部の商標出願人は商標登録出願が却下された後、引用商標の所有者が既に抹消されたが、その引用商標は如何なる処分も行われておらず、誰も管理する者も使用する者も維持する者もいない「三無」の状態にあることがわかった。これらの「三無」商標は、他社の通常の商標登録を妨げるだけでなく、放置状態にあるため、商標登録の秩序に重大な損害を与えている。商標資源が減少し続けると、その後の商標出願に大きな障害が生じ、商標登録秩序の維持に不利である。


 弊所代理した類似案件において、引用商標に対して3年不使用取消審判を請求することに加えて、代理人は復審において、引用商標の所有者が既に抹消されたため、他人の商標登録出願を妨げないものであると主張し、国家知識産局に支持された。次に、一部の復審決定書を挙げる。


 1.国家知識産権局は、商評字[2022] 第0000374720号の復審決定書で次の決定を下した。拒絶査定で引用された第 36118329 号図形商標(以下、引用商標という)の所有者が既に抹消されたが何らの処分も行っていないため、当局は、引用商標が実際に使用されていないと合理的に推定できる。したがって、商標の登録と使用は、消費者に混乱を生じさせることなく、初歩的な審査を行うことができる。


 2.国家知識産権局は、商評字[2023] 第0000183847号の復審決定書で次の決定を下した。復審の結果、引用商標の所有者は登録抹消が承認され、法的主体としての資格を失ったことが判明した。また、引用商標の所有者が取消前に商標権を処分し、又は他人にライセンスしたことを証明する証拠はなく、さらに引用商標が現在も使用されていることを証明する証拠もない。即ち、引用商標は所有者が存在しなくなっている。したがって、出願商標と引用商標とが併存しても関係公衆に混乱や誤解を招くことはなく、両商標は類似商標には該当しない。


 上記の復審決定書からみると、出願を取り下げず、復審において引用商標の所有者が既に抹消されたことを主張することにより、国家知識産権局の支持を得る可能性がある。しかし、今迄の実務経験によると、国家知識産権局は、引用商標の所有者が既に抹消されたため、両当事者の商標の併存が混乱を引き起こさないと直接判断するケースは少ない。一部の案件において、国家知識産権局は、引用商標の所有者が抹消されても、引用商標が当然に無効であることを意味しないと判断する場合もる。たとえば、国家知識産権局は、商評字[2023]第0000248339号復審決定書で次の決定を下した。復審の結果、引用商標の所有者の登録抹消は、必ずしも引用商標が無効であることを意味するものではないと認定した。


 国家知識産権局のより保守的な態度と比較して、法院の態度はより寛容である。筆者が閲覧した復審行政訴訟の判決書からみると、引用商標の所有者が抹消された後、その引用商標が市場に流通できなくなるため、商品とサービスの出所を示す機能も失う。よって、引用商標が他の権利者に継承されたことを証明する証拠がない場合、引用商標が出願商標と混同または誤解を引き起こすことがないことは、基本的に認められている。例えば、北京知識産権局は(2020)京 73 行初 2047 号判決書で次のような判決を下した。引用商標は現在も有効な登録商標であるが、その権利者は既に抹消され、しかも引用商標が他の権利者に継承されたことを証明する証拠がない。したがって、権利者が使用していない引用商標として、市場に流通しないため、係争商標と引用商標の並存は関係公衆に混乱や誤解させることはない。


 法院と国家知識産権局の考え方の相違は主に下記のことにある。法院の認定では、商標の最も基本的な機能は商品やサービスの出所を区別することである。引用商標の権利者が抹消されたが、その引用商標が処分されていない場合、当該引用商標は市場に流通することができないため、商品やサービスの出所を区別する機能がなくなる。一方、国家知識産権局は、商標登録制度自体を守ることに重点を置いており、一度登録された商標は、有効である限り保護されるべきであると考えている。

 

 国家知識産権局と法院はこの問題について考え方が異なることにより、態度もそれぞれ異なる。いずれにせよ、後続の商標出願人は、引用商標の所有者が抹消されたが、商標に対して何らの処分措置を講じていないことを発見することができれば、有益である。特に、引用商標の登録後3年未満で取消審判を請求できない場合には、引用商標の所有者が既に抹消されたことを主張することにより、抗弁することができ、商標が登録されるために争う余地が多くなる。


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