ECサイトに係る特許権侵害紛争における逆の行為保全の適用
時間: 2023-03-30 アクセス数:

——(2020)最高法知民終993号「天猫」に係る逆の行為保全事件


【裁判要旨】

 ECサイトに係る特許権侵害紛争において、被疑侵害者が行為保全請求を提出し、ECサイトの運営者がリンクの削除、ブロック、切断、及び取引とサービスの中止などの措置を取り消すと判決するようと請求する場合、人民法院は審査を行うべきである。「取り返しのつかない損害」を認定する際に、行為保全の措置を行わないと、請求人の名誉、商業信用などの権利が深刻に損害されるか、請求人の市場における競争優位性に深刻な損傷をもたらすかなどの要素を考慮する。損失があり損害賠償を請求することができるが、損失が巨大で計算できない場合、「取り返しのつかない損害」があると認定できる。なお、行為保全について、固定担保金+動態担保金の方式を使用することができ、動態担保金が上記措置を取り消した後で取得できる利益により算定できる。

【本件経緯】

 上訴人の永康市聯悦工貿有限公司(以下、聯悦公司)、浙江興昊塑業有限公司(以下、興昊公司)と、被上訴人の慈溪市博生塑料製品有限公司(以下、博生公司)、原審被告である浙江天猫網絡有限公司(以下 天猫公司)、謝輝氏との実用新案権侵害案において、対象権利は、特許番号がZL201820084323.7、名称が「新バレル構造のフラットモップ掃除道具」である実用新案権(以下、本件実案)であった。


 本件実案権者の博生公司は、「興昊公司が本件実案権の保護範囲内の製品を無断で製造・販売し、謝輝と聯悦公司が天猫公司の運営している「天猫網」で関連製品の販売・販売の申し出を行っていること」を主張し、「興昊公司、謝輝氏、聯悦公司が侵害行為を停止し、天猫公司が関連の商品リンクを削除・切断し、興昊公司、聯悦公司、天猫公司が博生公司の経済的損失316万元を連帯して支払うという判決を下すよう」と法院に請求した。

 浙江省寧波市中級人民法院(以下、一審法院)は、一審において、被疑侵害製品が本件実案権の保護範囲内であると認定し、謝輝氏、興昊公司、聯悦公司が直ちに侵害行為を停止し、天猫公司が被疑侵害品の販売リンクを直ちに削除・切断し、興昊公司、聯悦公司が博生公司の経済的損失316万元を連帯して支払うという判決を下した。

 

 一審判決の後、天猫公司が被疑侵害品の販売リンクを削除した。興昊公司、聯悦公司が不服として、最高人民法院に上訴した。


 二審の期間中、国家知識財産権局が本件実案権が全て無効であるという無効決定を下した。2020年11月5日に、聯悦公司が最高人民法院に逆の行為保全請求を提出し、天猫公司が直ちに関連商品の販売リンクを復元するという判決を下すようと請求し、また「双十一」が迫るので、リンクが復元されないと、自社が取り返しのつかない損失を被ると称した。

 

 最高人民法院は、2020年11月6日の午前にオンラインで審理し、当日の午後に行為保全の裁定を下し、天猫公司に直ちに聯悦公司の「天猫網」における関連商品の販売リンクを復元するようと命じ、聯悦公司のアリペイ口座にある一部の資金を凍結した。その後、各当事者が和解に達し、博生公司が提訴を取り下げた。


 最高人民法院は二審で下記のように意見を述べた。ECサイトの運営者が知的財産権者から権利侵害の初歩的な証拠を含む通知を受け取った際、関連リンクを削除、ブロック、切断し、取引とサービスを中止するなどの必要な措置を取る法定義務を負う。民事侵害訴訟期間中に、特許権などの行政授権により権利を取得する知的財産権が、無効宣告されたり、行政訴訟などの措置が取られたりなどにより権利が不確定な状態になる可能性があり、ECサイトの運営者の経営状況などに重大な変化が発生する可能性もあるので、ECサイトの運営者がリンクを復元しないと、自社の合法的権益が取り返しのつかない損害を被ることを理由で、人民法院に行為保全請求を提出し、ECサイトの運営者にリンクの復元などの行為保全措置を取るようと命じること請求する場合、人民法院は受理し、民事訴訟法代100条及び関連司法解釈の規定に基づいて審査を行うべきである。


 なお、請求者の請求によりリンクの復元などの行為保全を取るべきか否かを判断する際に、下記の要素を考慮するべきである。1.請求者の請求は事実基礎と法律根拠があるか。2.リンクを復元しないと、請求者に取り返しのつかない損失をもたらすか。3.リンクを復元することによる特許権者の損失が、リンクを復元しないことによる被疑侵害者(請求者)の損失より大きいか。4.リンクを復元すると、社会公共利益を損害するか。5.リンクを復元すべきでないその他の状況があるか。

 

 本件においては、

 第一、聯悦公司の請求は事実基礎と法律根拠があるか。本件が実用新案権侵害紛争であり、我国の実用新案出願が実体審査を受けないため、その権利の安定性が比較的に弱い。権利者、同業界の競合他社、社会公衆の利益のバランスを取り、正常で整然としたネットワーク運営環境を維持するために、特許権者は、ECサイトの運営者が被疑侵害品の販売リンクを削除するようと請求する際に、特許行政部門より発行された実用新案権評価報告書を提出しなければならない。特許権者が正当な理由なく提出しない場合、人民法院が既に権利侵害を認定した場合は除き、ECサイトの運営者がリンクの削除を拒否することができる。

 

 本件では、一審法院が権利侵害を認定した後、天猫公司は速やかに被疑侵害品の販売リンクを削除した。但し、二審の期間中、本件実案権が新規性なしで国家知識産権局に無効宣告され、博生公司がまた行政訴訟を提起したので、権利が不確定な状態になった。2020年11月5日まで、聯悦公司が本件及び別件訴訟でアリペイ口座にある資金が合計1560万元凍結され、通常の生産経営に重大な影響を及ぼした。このような状況で、聯悦公司の天猫公司が関連商品のリンクを復元するという請求は事実基礎と法律根拠がある。


 第二、リンクを復元しないと、請求者に取り返しのつかない損失をもたらすか。ECサイトに係る知的財産権紛争において、商品の販売リンクを削除、ブロック、切断すると、当該商品がECサイトで販売できなくなるのみならず、これまで累積したアクセス量、検索される際のラインキング及びアカウントの等級へも影響を及ぼすので、ECサイトにおける競争優位性が低下するようになる。したがって、「取り返しのつかない損失」を認定する際に、下記いずれか一つの状況に該当するか否かを考慮すべきである。1.行為保全措置を取らないと、請求者の商業名誉などの権利が取り返しのつかない損害を被るか。2.行為保全措置を取らないと、請求者の市場競争優位性又はビジネスチャンスが喪失し、誤ってリンクが削除された理由で賠償金を請求するとしても、損失が巨大又は複雑であるなどの原因で金額を算出することができない。


 本件では、被疑侵害製品は、主に聯悦公司経由で「天猫网」におけるネット店舗で販売されており、また原審で判明された事実によると、2019年11月13日まで被疑侵害品の累計した販売量が283,693である。2019年12日4日に、一審で各当事者が証拠を交換した際のその累計した販売量が352,996件になり、2020年1月13日に、一審の法廷審理の際にさらに594,347件になった。これは、被疑侵害品の販売量が多いことを示したとともに、その累計したアクセス量が多いこと及び検索される際のランキングが高いことも示した。したがって、販売リンクが切断されると、ネット販売による利益への影響が大きく、特に、「双十一」などの特別な時期に、リンクの復元が被疑侵害者の利益に巨大な影響をもたらす。よって、本件実案権の有効性が不確定な状態にある場合、リンクの復元などの行為保全措置により、ネット店舗の経営者が「双十一」などの特定の時期に正常に販売できるようにし、取り返しのつかない損失を被ることを回避することができる。


 第三、リンクを復元することによる特許権者の損失が、リンクを復元しないことによる被疑侵害者(請求者)の損失より大きいか。本件において、被疑侵害製品と本件実案権の製品が同じ種類の製品であるが、市場で類似する製品が多いので、博生公司の製品がリンクの復元により完全に代替されることにならない。また、最高人民法院は、リンクの復元による博生公司の損失を既に考慮し、聯悦公司のアリペイ口座の対応する金額の資金及びリンクが復元された後のに販売による利益を凍結した。しかも、聯悦公司がこれを同意した。このような状況で、リンクを復元しないことによる聯悦公司の損失より、リンクを復元することによる博生公司の損失が少ないと思われる。


 第四、リンクを復元すると、社会公共利益を損害するか。特許権侵害紛争において、社会公共利益は、通常、公衆健康、環境保護及びその他の重大な社会利益を指す。本件において、被疑侵害製品は家庭用モップバケツであるので、公共利益として考慮すべき重要なことは、リンクの復元により公衆の健康、環境の保護への影響、特に消費者の人身財産への傷害などである。なお、本件で被疑侵害製品が公共利益を損害する証拠はない。

 

 第五、リンクを復元すべきでないその他の状況があるか。本件でリンクを復元すべきでないその他の状況はない。


出所:最高人民法院知的財産権法廷公式サイト


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