[中国]使用環境特徴及び機能的特徴の認定, 特許侵害訴訟中の部分判決と仮差止命令について(一)
時間: 2020-07-21 アクセス数:

The Limitation of Application Environment Features in Claim, Determination of Functional Features and Overlap of Precedent Judgment on Cessation of Infringement and Temporary Injunction


ワイパーのコネクタ案件の一審及び最高人民法院知的財産権法廷による二審案件

((2019)最高法民終2号)


郭 金霞(GUO JINXIA) 万 欣容(WAN XINRONG) 

金高 善子(KANETAKA YOSHIKO)小野 義勝(ONO YOSHIKATSU)


抄 録  本件は,最高人民法院の知的財産権法廷設立後,同法院により直接二審案件を審理した最初の特許紛争案件である。本件判決書では,使用環境特徴(4.1にて詳述)の限定作用を詳細に論述し,被告製品が請求項における使用環境特徴に限定された使用環境に適用できる場合,特許権侵害成立と判断した。また,請求項中に記載の技術的特徴に機能的な記載が含まれている場合でも,構造的特徴と機能的特徴とを同時に含む技術的特徴は機能的特徴と認定すべきではないと判断した。


また,訴訟中の部分判決と仮差止命令のオーバーラップについて,当事者は直ちに権利侵害行為を停止させる緊急の状況があるか否かに基づき,請求すべきであり,本稿では,訴訟中の部分判決と仮差止命令との区別,仮差止命令を出す条件などをまとめた。


目 次  

1. はじめに

2. 案件の経緯

2.1  当事者双方の基本状況

2.2  本件に係る特許

3.裁判の争点

3.1  一審の争点

3.2  二審の争点

4.請求項の保護範囲について

   4.1  使用環境特徴の限定作用

   4.2  機能的特徴の判定

5.  訴訟中の部分判決と仮差止命令について

6. おわりに


1. はじめに

 

本件は,最高人民法院の知的財産権法廷が設立された後に,最高人民法院により直接二審を審理した最初の特許紛争案件1) であるため,国内外から広く注目されていた。


本件は,フランスのヴァレオクリーニングシステム会社(以下,ヴァレオ社と称す)の発明名称「自動車のワイパーの接続器及びその接続装置」である特許権(2011年1月12日に特許査定になった有効特許)に関する。ヴァレオ社は廈門ルーカス自動車部品有限会社(以下,ルーカス社と称す),廈門富可自動車部品有限会社(以下,富可社と称す)及び陳少強氏が製造,販売,許諾販売したS850,S851とS950のワイパー製品が上記特許権を侵害していると主張した。ヴァレオ社は,上海知的財産権法院(以下,一審と記す。)へ提訴して,権利侵害行為の停止,賠償金及び合理的な支出合計600万元を求めた。また,ヴァレオ社は,100元の担保金を供託して被告らの侵害行為の差止めを請求した。一審において,原告は,被告らが引き続き侵害行為を実施して,原告側の製品の販売量及び経営状況に悪影響を与えているため,知財法院へ権利侵害認定について先に部分判決を下し,直ちに侵害行為の停止を命じるよう申し立てた。


一審は,審理を経て部分判決((2016) 滬73民初859号民事判決書)を下し,被告に対して直ちに権利侵害行為を停止することを命じたが,原告の仮差止請求については処理しなかった2)。ルーカス社と富可社は,上記判決を不服として,最高人民法院の知財法廷(以下,二審と記す。)に上訴し,原判決の取り消しを求めた。一方,二審において,ヴァレオ社はルーカス社と富可社に侵害行為の停止を求める差止め請求を支持することを請求した。二審は,2019年3月27日に終審判決を下し,被告側の上訴を却下し,原判決を維持した。


本件において,当事者双方の争点は,1)被疑侵害製品が本件特許権の請求項1の保護範囲に属するか否か,特に請求項に記載の使用環境特徴の限定作用,請求項中に機能的表現がある場合の機能的特徴の認定に関する点,2)二審段階における仮差止請求に関する処理の点の2点である。


以下,一審及び二審の上記争点に対する判断について概説する。


2. 案件の経緯

 

2.1 当事者双方の基本状況

 

被告側:陳少強氏は,ルーカス社の法定代表者であり,2010年に,陳少強氏の登録商標「CARALL」を独占実施で富可社にライセンスして,2015年に,その商標を富可社に譲渡した。ルーカス社はS850,S851とS950の被告製品を製造し,富可社と共同で販売した。


原告側:ヴァレオ社(VALEO SYSTEM D’ESSUYAGE)はフランスの多国籍の自動車部品製造メーカーであり,1994年に中国市場に進出し始め,20年以上の発展を経て,中国のワイパーシステム市場で重要な位置を占めるようになった。ヴァレオ社は,ルーカス社と富可社が自社のホームページ,Tmall,1688(中国のe-コマースプラットフォームである。),展示会などで被告製品を販売(販売の申し出)したことを証明するために,一審の時に14件の公証証書を提出した。


2.2 本件に係る特許

 

(1)書誌事項

本件に係る特許は,ヴァレオ社の特許出願CN02820414.Xの分割出願であり,中国出願日は2002年10月2日,優先権日は2001年10月15日である。2011年1月12日に特許査定となり,2022年10月2日に権利満了となる。また,世界中に22のファミリー出願があり,欧州,日本,アメリカ,中国,韓国においても,特許権を取得した3)


本件に係る特許は,1の独立請求項と10の従属請求項を含んでいる。ヴァレオ社は,被告製品が本件特許の請求項1~10の保護範囲に属すると主張した。ここで,当事者双方の主な争点は,被告製品が独立請求項1の保護範囲に属するか否かである。


(2)独立請求項の内容

本件特許の独立請求項1は以下の通りである。


アーム(22)とブレード(24)の部材(40)との連接及びヒンジ接続のためのワイパーのコネクタ(42)は,U字形に後方へ向かって湾曲したアーム(22)の先端部(32)の内側で,後方から前方へ長手方向に前記先端部(32)と係合し,コネクタ(42)は,前記アーム(22)の先端部(32)における係合位置に前記コネクタ(42)を固定する弾性変形可能な少なくとも一つの部材(60)と,部材(40)の2つのウィング(44)の間に収納される,長手方向及び垂直方向に延びる2つの側片(48)とを備えるワイパーのコネクタにおいて,


前記コネクタ(42)は安全クラスプロック(74)により前記アーム(22)における係合位置に固定され,前記安全クラスプロック(74)は,前記固定部材(60)に対向して延びて,前記固定部材(60)の弾性変形を阻止し,コネクタ(42)をロックする閉位置と,前記コネクタ(42)を前記アーム(22)から解除する開位置間を移動可能で設けられていることを特徴とするワイパーのコネクタ。

 

(3)特許無効審判状況

一審被告の富可社は,それぞれ,2017年3月24日と2018年3月15日に,中国国家知識産権局の専利復審委員会に対して,本件特許に係る無効審判を請求したが,専利復審委員会は,特許有効の審決を下した。


第一回の無効審判請求時に,富可社は主に特許法実施細則第21条第2項4)に規定される,独立請求項1が技術課題を解決するための必須技術的特徴を欠如しているため,特許法第26条第4項に基づき,請求項が明細書にサポートされていないと主張した。復審委員会の合議体は上記無効理由を支持せず,特許権有効を維持した。


第二回の無効審判請求時に,富可社は「本件に係る特許は分割出願であり,親出願における請求項の発明の名称である「ワイパー」を「ワイパーのコネクタ」に補正したが,親出願には,コネクタに関する改良技術案又は技術内容が記載されていないため,このような補正は親出願の特許請求の範囲及び明細書に記載した範囲を超えており,特許法第33条と第22条に適合していない」と主張した。合議体は,本件特許に特定されたコネクタに関する技術案が親出願の明細書に記載されており,親出願の出願書類に記載された範囲を超えていないと,認定した。


富可社は,請求項1と証拠2(GB2014040B)との差異は,コネクタの構造及び組成に対する用途特徴を明示してるか否かだけであり,これらの用途特徴は請求項の保護範囲を限定していないため,請求項1は証拠2に対して新規性を具備していないと,主張した。この主張に対し,合議体は,上記用途特徴は実質上使用環境特徴に該当すると認定し,この使用環境特徴は保護を求めるコネクタと,連結,協働して使用するなどの関係性があり,請求項の保護範囲に対し限定作用を有していると認定した。


また合議体は,請求項1が,証拠1(US4976001A),証拠2(GB2014040B),及び証拠3(WO00/38964A1)に対して,少なくとも以下のような差異点があると認定した。「前記コネクタ(42)は安全閉塞部材(74)により前記アーム(22)における係合位置に固定され,前記安全閉塞部材(74)は,前記固定部材(60)に対向して延びて,前記固定部材(60)の弾性変形を阻止し,コネクタ(42)をロックする閉位置と,前記コネクタ(42)を前記アーム(22)から解除する開位置間を移動可能で設けられている」。合議体は,上記差異点は公知常識ではないため,請求項1は新規性と進歩性を具備しており,特許法第22条の規定に適合していると認定した。


3.  裁判の争点

 

請求項1と被告製品との特徴対比において,主に以下の四つの点について争われた。


第一,請求項1に記載の「アーム(22)とブレード(24)の部材(40)との連接及びヒンジ接続のためのワイパーのコネクタ(42)」(ここでの記載は請求項1をそのまま引用したものであるため,付番が必ずしも本論説に示す図にあるとは限らない。)という特徴について,コネクタが「標準」のワイパーアームと協働して使用されなければならないのか,また,アームとブレードとは「直接接触する」必要があるのか。


第二,請求項1に記載の「前記アーム(22)の先端部(32)における係合位置に前記コネクタ(42)を固定する弾性変形可能な少なくとも一つの部材(60)と,…を備える」(図1および図3を参照)という技術的特徴について,被告製品の弾性部材により,ワイパーアームの先端部における係合位置にコネクタを位置決めのみ可能で,固定することはできないのか(図2を参照)。


第三,請求項1に記載の「前記安全クラスプロック(74)は,前記固定部材(60)に対向して延びて,前記固定部材(60)の弾性変形を阻止し,コネクタ(42)をロックする閉位置と,...で設けられている」(図1および図3を参照)という技術的特徴について,「弾性変形を阻止し,コネクタをロックする」という内容は機能的記載に該当するか,本件特許に係る明細書第【0056】段落に記載の「固定部材に対向して延びる」という具体的実施形態に限定すべきであるか。


第四,被告製品の安全クラスプロックの先方に設けられている,中間連接の一対の凸起(S850,S851製品)及び一つの横板(S950製品)は,被告製品が本件に係わる特許の保護範囲に属するかを判断する際に影響があるか否か。

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図1 本件特許に係るワイパーの構造

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図2 被告製品の構造


3.1 一審の争点

 

(1)被告製品は請求項1の保護範囲に属するか


一審は,下記の理由により,被告製品は請求項1の保護範囲に属すると認定した。


第一の争点について,本件特許に係るワイパーのコネクタはワイパーアームとブレードとの連接用であり,ワイパーアームはコネクタの一部ではないため,「アームとブレードの一つの部材との連接及びヒンジ接続のためのワイパーのコネクタ」という技術的特徴は,本件特許の「使用環境特徴」であると認定できる。被告製品は,自動車のワイパーであり,その機能を実現するために,必ず自動車のワイパーアームと協働しなければならない。コネクタでワイパーアームと連接することにより,ワイパーアーム及びコネクタがワイパーベース上の水平軸線まわりで回動する。このような連接は,ヒンジ接続と認定すべきである。従って,被告製品は,請求項1における使用環境特徴に限定された使用環境で応用することができる。また,特許権の保護範囲は,その請求項の内容に基づき確定すべきであり,本件特許の請求項において,ワイパーアームを「標準ワイパーアーム」に限定していないため,被告製品は,本件特許の上記技術的特徴と同一であると認定した。

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図3 本件特許に係るコネクタとワイパーアームのロック状態

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図4 被告製品のコネクタとワイパーアーム


第二の争点について,被告製品は一対の弾性部材の端部が内側に向けて湾曲(図4における横方向湾曲),あるいは凸起しているため,ワイパーアームの湾曲部はそこに係合されることにより,連接位置,即ち係合位置に固定され,小さい外力で取り出しにくい状態となっている。つまり,被告製品のコネクタは弾性部材によりワイパーアームの先端部における係合位置にロックされている,として被告製品は本件特許の上記技術的特徴と同一であると認定した。


第三の争点について,「固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする」ことは,機能的な表現で限定された技術的特徴である。また,「安全クラスプロックは,固定部材に対向して延びて」というのは,安全クラスプロックと固定部材との方向・位置関係だけを開示し,このような方向・位置関係により,固定部材の弾性変形を阻止することはできない。当業者にとって,安全クラスプロックは保護作用を果たす部材に過ぎず,請求項1に基づいて「固定部材の弾性変形を阻止する」機能を実現できる安全クラスプロックの構造,あるいは安全クラスプロックと固定部材との配合・作用関係を直接且つ明確的に特定できない。本件特許の明細書,原告製品の実物及び被告製品から分かるように,固定部材に対向して延びている安全クラスプロックにより固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックするには,以下の方式がある。(一)本件特許の明細書及び具体的な実施形態に開示されたように,安全クラスプロックの2つの垂直側片の内面が固定部材の外面に貼り付けられる(図5を参照)ことにより,固定部材が外へ弾性拡張することを阻止する。(二)被告製品のように,安全クラスプロックの2つの垂直側片に凸起を設ける(図6を参照)ことで,固定部材が外へ弾性拡張することを阻止する。(三)原告製品と被告製品に用いられる構造のように,安全クラスプロックの先方に横板又は凸起を設けることで,ワイパーアームが前に移動することを阻止して,固定部材がワイパーアームの移動に伴って外へ弾性拡張することを阻止する。(四)第三の方式と第一,第二のいずれか一つとを同時に利用する。上述のように,「固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする」という機能を実現できる複数の技術案があるため,これらの技術案が,全て本件特許の保護範囲に含まれると認定すると,本件特許の保護範囲を不当に拡大することになり,公共の利益を害することとなる。従って,このような機能的技術的特徴については,明細書及び図面に記載の具体的な実施形態に記載された当該機能を実現するための「不可欠」な技術的特徴の範囲内に過不足なく限定すべきである。


本件特許の明細書第【0056】に記載の「コネクタの固定はクラスプロックの垂直側片の内面により保証されている。内面は,爪の外側面に沿って延びているため,爪がコネクタの外部へ横方向変形することを阻止する。よって,コネクタがフック状端部から脱出できない」というのは,上記機能を実現する不可欠な技術的特徴であるので,この内容に基づき,上記機能的に記載した技術的特徴を限定すべきであると認定した。

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図5 本件特許の安全クラスプロック(74)

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図6 被告製品S850の安全クラスプロック


また,均等論の適用について,被告製品において,固定部材の爪に垂直している安全クラスプロックの垂直凸起が固定部材の弾性拡張を阻止しており,該垂直凸起が安全クラスプロックの両側片の内面に設けられている(図6を参照)ことと,本件特許における「安全クラスプロック(74)の内面(77)が固定部材の爪(60)に平行し,固定部材を直接制限する」こととは,ともに安全クラスプロックの両垂直側片が固定部材の爪の外側面に作用してコネクタの横方向変形を阻止している。両者の採用された技術手段は基本的に同一であり,固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする機能,効果も同一である。且つ,本件特許における「安全クラスプロックで爪の外側面を直接制限する」ことの代わりに,安全クラスプロックの内面に設けられている凸起で爪の外側面を直接制限することも,当業者にとって,創造的労働を経ずに想到できる技術案であるため,被告製品は本件特許の上記技術的特徴と均等であると認定した。


第四の争点について,「被告製品に係る技術案は,本件特許の請求項に記載の全ての技術的特徴と同一または均等の技術的特徴を含んでいるため,本件特許権の保護範囲に属すると認定した。被告製品に係る技術案には,本件特許の請求項に記載の全ての技術的特徴以外に,「被告製品の安全クラスプロックの先方において,中央部で接続されている一対の凸起(S850,S851製品)及び一つの横板(S950製品)が設けられる」技術的特徴も含んでいるが,被告製品が本件特許権の保護範囲に属する認定に対して影響しない。」と認定した。


一審は,上記理由に基づいて,被告製品が本件特許の請求項1の保護範囲に属すると認定した。

 

(2)訴訟中の部分判決について

一審段階において,原告は,直ちに侵害行為の停止を命ずる部分判決を下すよう申し立てた。一審は,被告製品が本件特許権を侵害している以上,原告は侵害停止を求める権利があり,且つ被告が一審訴訟係属中に引き続き侵害行為を実施している証拠があるため,原告側の損失を拡大させないように,被告であるルーカス社と富可社が本判決の発効日から,本件に係る特許権の侵害行為を直ちに停止せよという部分判決を下した。但し,原告の訴訟中の行為保全請求については,処理しなかった。


3.2 二審の争点

 

本件上訴人のルーカス社と富可社の上訴理由は,依然として,被告製品が本件特許の請求項の保護範囲に属するか否かであり,請求項の保護範囲の認定に関する争点も上記四点である。


二審において,被上訴人は再度仮差止命令を請求した為,二審では本件において訴訟中の部分判決と仮差止命令の必要性についても論述した。

 

(1)被告製品が請求項1の保護範囲に属するか否かについて

イ)請求項1に記載の使用環境特徴について

請求項1に記載の「アームとブレードの部材との連接及びヒンジ接続のためのワイパーのコネクタ」という特徴に対して,「ワイパーアームがブレードの一つの部材と「直接的に」連接及びヒンジ接続されている」と理解すべきか否かについては,二審法院は次のように認定した。


「中華人民共和国特許法」第59条5) と「最高人民法院による特許権侵害をめぐる係争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下,他の解釈と区別し「司法解釈」と称する)の第2条6)の規定により,請求項に記載の特定の用途に対する解釈は明細書及び図面から逸脱し,曲解してはならない。


先ず,本件特許の請求項に記載の上記特徴に関する説明から見ると,コネクタがワイパーアームとブレードとの連接及びヒンジ接続を保証するために用いられると限定されたが,ワイパーアームとブレードとは「直接接触している」ことは限定されていない。したがって,「文言侵害解釈」により理解したとしても,「直接接触している」という意味ではない。


また,本件特許の明細書と図面における記載によると,ワイパーアーム22がコネクタ42に連接され,コネクタがブレードにヒンジ接続されているため,コネクタによりワイパーアームとブレードとの連接及びヒンジ接続を保証したことが明らかである。よって,本件特許の請求項1は,ワイパーアームとブレードとが直接接触することを求めていない。


上記技術的特徴において,必ず,「標準のワイパーアーム」との接続に限定すると解釈すべきか否かについて,上訴人は,本件特許における技術案が「非標準のワイパーアーム」のみに用いることができるが,被告製品が「標準のワイパーアーム」に用いることができると主張した。これに対して,二審は以下のように認定した。


本件特許の発明ポイントは「ワイパーアームのコネクタ」であるが,上記技術的特徴においてコネクタの構成が直接に限定されていなく,当該コネクタとその他の部材,即ちワイパーアーム,ブレード等との連接関係が限定されている。即ち,当該コネクタの使用環境が限定されているため,上記技術的特徴は使用環境特徴に属する。一般的に,保護対象が使用環境特徴で限定された使用環境に応用できればよいが,その使用環境「のみ」に応用できることは必要ない。但し,当業者が特許請求の範囲,明細書及び審査包袋を読み込んでから,保護対象が当該使用環境のみに用いることができることを明確且つ合理的に知り得る場合は除く。また,本件特許の明細書には,「如何なる種類のワイパーを一つの標準のワイパーアームに装着されることもできる」ことが記載されているが,保護対象のコネクタが標準のワイパーアーム「のみ」に連接することができることは記載されていない。即ち,「非標準」のワイパーアームを排除していない。それに,本件特許に関わる発明の目的は,「コネクタをブレードに固定できる装置を提供し,前記装置によりコネクタが装着位置にロックされることができる」ことも含むので,上記の内容はその中の一部しかない。当業者は,発明が解決しようとする課題及び記載された技術案により,「保護対象のコネクタは,横幅がワイパーアームに適合すれば,本件特許の技術案により装着位置に固定されることができるため,標準のワイパーアーム「のみ」に連接できることではない。」と理解することができる。


 ロ) 被告製品は当該使用環境特徴を有するか

被告製品が上記使用環境特徴を具備するか否かについて,二審は,「ルーカス社と富可社の両者共に,被告製品のコネクタがワイパーアームに連接し,コネクタがブレードにヒンジ接続されていることを認めた。即ち,被告製品はコネクタによりワイパーアームとブレードとの連接を実現した。また,被告製品は請求項における使用環境特徴に限定された使用環境に用いられることができるため,更にその他の使用環境に用いられることができるか否かは,原則上,権利侵害の判定結果に影響しない。つまり,被告製品には上記技術的特徴が含まれている。」と言う意見を述べた。


「前記ワイパーアームの先端部における係合位置に前記コネクタを固定する弾性変形可能な少なくとも一つの部材を備える」という技術的特徴について,上訴人は,被告製品の弾性変形可能な部材によりコネクタをワイパーアームの先端部における係合位置に「固定」することができるが,「ロック」することはできないと主張した。これに対して,二審は,『「固定」の意味について,上訴人が述べた「完全にロック・固定する」に理解するものではなく,当業者が明細書と図面を読み込んだ後の請求項に対する理解を結び付けて理解すべきである。被告製品の解決しようとする技術課題は,自動車のワイパーアームのコネクタが外力により取り外されることを減少又は防止することである。この文言により,当業者は,当該コネクタの弾性部材によりコネクタをワイパーアームの先端部における係合位置に「固定」する際に,ある程度で封鎖,固定できれば良いというように理解することができる。被告製品の横方向湾曲或は凸起が弾性部材の横幅に適合するワイパーアームの先湾曲部に係合され,ワイパーアームの先端部における係合位置に封鎖,固定されることができる。したがって,被告製品には本件特許の上記特徴が含まれている。』と認定した。


ハ) 請求項1中の機能的特徴の認定について

請求項1における「前記安全クラスプロックは,前記固定部材に対向して延びて,前記固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする閉位置」という技術的特徴は機能的特徴に該当するかについて,二審は,「司法解釈(二)」の第8条7)の規定により,機能的特徴とは,構造,成分,手順,条件又はその間の関係などについて,それが発明創造において果たす機能又は効果を通じて限定を行う技術的特徴をいう。したがって,ある技術的特徴には,発明の技術案に特定された構造,成分,手順,条件又はその間の関係などが限定又は示唆されている場合,原則上,当該技術的特徴は,上記司法解釈に規定の機能的特徴に該当しないため,機能的特徴として権利侵害対比に用いられることはできない。』と認定した。


具体的に言えば,上記技術的特徴には,安全クラスプロック(74)と固定部材(60)(図3を参照)との位置関係が限定されており,また「安全クラスプロックは前記固定部材に対向して延びて」という特定された構造も示唆されている。上記位置関係と構造の作用は「前記固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする」ことである。当該位置関係と構造により,当業者は,本件特許の明細書【0056】段落における関連記載を結びつけ,「安全クラスプロックは前記固定部材に対向して延びている」場合,延びた部分と固定部材の外面との間の距離が十分に小さければ,固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする効果を得られる。よって,当該技術的特徴は,特定位置関係と構造を限定していると共に,当該位置関係と構造の機能も限定している。また,当該位置関係と構造,とその機能とを結び付けて理解しなければ,当該位置関係と構造の具体的な内容を明確に確認することはできない。このような「位置関係或いは構造+機能的表現」を含んでいる技術的特徴は,機能に対する記載があるが,実質的には,位置或いは構造特徴であり,上記司法解釈における機能的特徴ではない。当事者が一審による上記技術的特徴が機能的特徴であるという認定に対して異議を提出しなかったが,請求項に対する解釈は法律上の問題であり,また,侵害対比の方法において,機能的特徴とその他の特徴とは明らかな差異があり,侵害判定の結果に影響を及ぼす可能性があるため,二審はそれを指摘して是正した。


本件において,被告製品の安全クラスプロックの両側片の内面に,側片に垂直する一対の垂直凸起が設置されている。前記安全クラスプロックが閉位置に置けられる場合,安全クラスプロックの両側片の内面における側片に垂直する凸起が弾性部材の外面に対向している。これは請求項1に記載の「前記安全クラスプロックは前記固定部材に対向して延びて」の一つの形態である。しかも,これにより「前記固定部材の弾性変形を阻止し,前記コネクタをロックする」という機能も実現できる。したがって,被告製品には上記技術的特徴が含まれていると認定した。


最後に,「被告製品の安全クラスプロックの先方に一つの横板(S950製品)又は中央部で接続されている一対の凸起(S850,S851製品)が設けられ,安全クラスプロックが閉位置に置かれる場合,上記横板又は凸起はワイパーアームの先方に位置する」という付加的技術的特徴は,侵害判定結果に実質的に影響するか,また被告製品は更に優れた技術的効果を得られるかについて,二審は,「被告製品が本件特許の全ての技術的特徴含むことにより,本件特許の技術的貢献を利用した事実は既に成立したため,上記付加的技術的特徴及びその付加的技術的効果は侵害判定結果に実質的な影響を与えられない。また,被告製品のコネクタがその弾性部材の横幅に適合するワイパーアームに連接されている場合,ワイパーアームの先方への移動は弾性部材の端部の湾曲又は凸起により阻害され,安全クラスプロックの先方の横板又は凸起が阻害の作用を発揮できない。つまり,当該付加的技術的特徴は,実際に上訴人が主張した技術的効果を実現することができない。」と認定した。


(2)訴訟中の部分判決と行為保全について

先ず,被上訴人が一審で請求した訴訟中の行為保全について,「最高人民法院による中華人民共和国民事訴訟法の適用に関する解釈」の第161条8)の規定によると,当事者は一審判決に不服があり上訴を提起した案件について,当事者が一審で行為保全を請求した場合,二審法院が上訴案件を受理する前は,一審法院により管轄し,二審法院が受理した後は,二審法院により管轄する。本件について,二審法院が既に受理したので,本件に関わる行為保全請求は二審法院より管轄,処理することはこうあるべきである。


本件において,一審が下した侵害行為を停止せよという部分判決はまだ発効していないので,特許権者は一審における行為保全請求を引き続き主張した。これについて,二審は,「二審は,侵害行為の停止を求める行為保全請求について,状況により適切に処理すべきである。例えば,緊急な場合或いはその他の損害をもたらす可能性があり,特許権者は行為保全を請求したが,二審は行為保全の期限内に最終判決を下すことができない場合,保全請求を単独に処理し,法により適時に裁定を下すべきであり,また行為保全の条件を満たせば,適時に保全措置を取るべきである。一方,二審は行為保全の期限内に最終判決を下すことができる場合,適時に判決を下し,行為保全請求を棄却することができる。本件においては,ヴァレオ社が提出した証拠は損害を被っている緊急な状況であることを十分に証明できない,しかも,二審は法廷において既に最終判決を下したので,改めて侵害行為を停止せよという行為保全裁定を下す必要はない。」と認定した。つまり,ヴァレオ社の訴訟中の保全請求を支持しなかった。



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