異議申立における「Bear Grylls」氏名権の保護
「ベアさん」というと、世界中の未開地を冒険してきたことを思い出す人が多いだろう。思ったとおり、ここで話したいのはこのベアさん――サバイバルをテーマとするドキュメンタリー番組『MAN vs. WILD』の主人公、ベア・グリルス(Bear Grylls)。
中国中央テレビ局は『MAN vs. WILD』という番組を中国へ導入したにより、ベア・グリルスは中国で絶対な人気を誇る有名人になってきた。ベア・グリルスの知名度が高まるにつれて、彼の氏名は第三者より商標として出願された。ここで以下のケースを通してベア・グリルスの氏名権を保護する方法を分析する。
概況
2016年11月8日、北京康信特許事務所はBEAR GRYLLS VENTURES LLP(以下「異議申立人」という)の依頼を受け、第三者より出願された第13698972号「
」(以下「被異議申立商標」という)に対して異議申立を提出した。異議申立人が、被異議申立商標はベア・グリルス(以下「権利者」という)が有する先行氏名権を侵害していると考えた。異議申立の際に、代理人は、『中華人民共和国商標法』(以下『商標法』という)第10条第1項(7)号、第32条及び第44条に基づいて、1)異議申立人は異議申立人とする資格がある理由2)異議申立人と「BEAR GRYLLS」、被異議申立商標との関連性 3)ベアさんの知名度 4)被異議申立商標の登録が関連公衆の混同を生じさせ、ベアさんの氏名権に対して侵害を与え、又は侵害を与える恐れがあることを論証して、しかも先行判例を引用した。結果として、異議申立理由は認められ、国家工商行政管理総局商標局は被異議申立商標について登録しない旨の審決を出した。
背景
「人類史上最強の冒険家」と言われているベア・グリルス(フルネーム:EDWARD MICHAEL BEAR GRYLLS)は、有名な冒険家、司会者、作家、講演家である。彼はサバイバルをテーマとするドキュメンタリー番組『MAN vs. WILD』への出演で知られている。中国では、視聴者に「ベア」または「ベアさん」との愛称を付けられた。『MAN vs. WILD』のほか、本を出したり、別の番組に出演したり、ますます人気になってきた。そして、本件の異議申立人である同名の会社「BEAR GRYLLS VENTURES LLP」を立ち上げた。ベア・グリルスの氏名とするブランドは、メディアの宣伝に経て、中国消費者によく知られていた。
2016年11月8日、北京康信特許事務所はBEAR GRYLLS VENTURES LLPの依頼を受け、出願第13698972号「
」に対して異議申立を提出した。その主な理由は、被異議申立商標には、ベア・グリルス(Bear Grylls)の氏名を使用し、その先行氏名権を侵害しているので、『商標法』第32条にいう「他人の現有の先行権利を侵害した」状況に該当するである。
被異議申立商標の情報は下記の通りである。
| 被異議申立商標 |
商標データ |  |
出願番号 | 13698972 |
出願日 | 2013年12月11日 |
区分 | 国際分類第7類 |
指定商品 | 農業用機械、航空機エンジンカバー、軸継手(機械用のもの)、洗濯機、タップ(機械又は機関又は原動機の部品)、エレベーター(昇降機)、金属加工機械、原動機用スターター、自動販売機、こぎり盤 |
案件のポイント
本案件の主な理由は、被異議申立商標は他人の先行氏名権を侵害しているので、『商標法』第32条にいう「他人の現有の先行権利を侵害した」状況に該当する。肝要な論点と証拠は以下の通りでする。
1. 異議申立人は異議を申し立てることができること。本件において、異議申立人BEAR GRYLLS VENTURES LLPはベア・グリルスがその氏名で設立した企業で、利害関係者として異議を申し立てることができる。その事実を証明する為に、代理人は関連証拠を収集して、ベア・グリルスは異議申立人会社の創立者であって、異議申立人は利害関係者として被異議申立商標に対して異議を申し立てることができることを論証した。
2. 被異議申立商標が権利者の氏名と同一であること。ベア・グリルスのフルネームはEDWARD MICHAEL BEAR GRYLLSである。そのため、「EDWARD MICHAEL BEAR GRYLLS」と「Bear Grylls」と「BG」の対応関係を証明しなければならない。代理人はネット上の資料を収集して、次の点からその対応関係を論証した。1)ベア・グリルスがその氏名で立ち上げたブランドは、メディアの報道に経て中国消費者によく知られていた。2)被異議申立商標の出願日前に、ベア・グリルスが既にその氏名、氏名の略語及び氏名のロゴについてのマドリッド商標国際登録出願を行い、しかも中国を指定する領域指定を行った。3)公衆は「Bear Grylls」または「BG」で「EDWARD MICHAEL BEAR GRYLLS」を呼ぶ。それによって、被異議申立商標の中の「Bear Grylls」及び「BG」はそれぞれベア・グリルスの常用名及び略語であることを証明できた。
3. ベア・グリルスは中国で高知名度を有すること。この論点を支持するために、代理人はベア・グリルス及びそのブランドに係るネット上の検索結果、関連報道、記事及び出演した番組の画面キャプチャ、全世界での登録証の写しなどの証拠を収集して提出した。
4. 被異議申立商標の登録が関連公衆の混同を生じさせ、権利者の氏名権に対して侵害を与え、又は侵害を与える恐れがあること。代理人は被異議申立人が「Bear Grylls」に係る商標を数多く出願した証拠を提出した。被異議申立人の行為は、不正に行政審査資源を占用し、商標登録秩序を乱していて、誠実信用の原則にも違反した。
5. 先行判例。上記論点を更に支持する為に、氏名権に係る先行判例も提出した。
審決
2017年11月12日、商標局は、1)異議申立人より提出した証拠はベア・グリルスが出演したテレビ番組は中国で一定な反響を呼び、ベア・グリルスは冒険家として中国公衆に知られていることを証明できる。2)被異議申立商標の文字がベア・グリルスの氏名と同一で、被異議申立人が許可を得ずに被異議申立商標を出願した行為は、ベア・グリルスの氏名権を侵害していると認定、被異議申立商標について登録しない旨の審決を出した。