多国籍企業の中国における結審した専利侵害訴訟に対する分析
時間: 2016-04-15 李慧 アクセス数:

抄録 中国専利出願件数の増加に伴って、各地の人民法院に受理された専利権侵害紛争事件も増えてきた。その中、多国籍企業に係る中国専利権侵害訴訟が最も注目されている。ここで、それらに係わる業界、多国籍企業の国別、権利の種類、管轄人民法院、原告、賠償額などについて、2013年~2015年の多国籍企業の中国における結審した専利権侵害訴訟を分析する。


一、結審した専利権侵害訴訟の概況
2013年~2015年の中国における結審した専利権侵害訴訟の総件数 は、4,388件である。2014年の結審した案件は、一番多く2,045件であるが、2015年と2013年は、それぞれ1,273件と1,070件である。また、2013年~2015年の多国籍企業に係る中国専利権侵害訴訟の結審案件は、234件で、結審総件数の約5%を占めている。
2013年~2015年の結審案件において、意匠、実用新案、発明に係る案件がそれぞれ2,755件、1,030件、603件である。即ち、中国専利権侵害訴訟事件の中では、意匠に係る案件が一番多く、総件数の約60%を占めており、発明に係る案件は一番少なく、総件数の約14%を占めている。それに対して、多国籍企業に係る専利権侵害訴訟においては、実用新案が一番多く、56%であり、次に意匠、38%であり、発明は一番少なく6%である。また、多国籍企業に係る専利権侵害訴訟事件の結審案件において、発明、意匠、実用新案の比率は、それぞれ、22%、3%、1%である。
総じていえば、2013年~2015年の結審案件において、多国籍企業に係る案件数は、比較的低い比率を占めており、発明、意匠に係る案件が多い。

 

2013年~2015年の専利権侵害訴訟事件数の対比図



三つ種類の専利権に係る侵害訴訟件数対比

二、2013年~2015年の多国籍企業に係る侵害訴訟の結審事件に関する分析
以下、業界、製造業の分野、多国籍企業の国別、専利権の種類、管轄人民法院などについて、2013年~2015年の結審した多国籍企業に係る侵害訴訟に対する分析を行う。


1.業界による分析
中国国家統計局の「国民経済業界分類(GB/T 4754-2011)」によれば、2013年~2015年の多国籍企業に係る侵害訴訟は、製造業、卸売り、小売、電力、熱力、天然ガス及び水産業、サービス業などの業界に係っている。その内、製造業に係わるものが一番多く、次には、卸売り及び小売(中には、スーパー販売に係わる侵害訴訟が一番多い)である。


各業界の専利権侵害訴訟件数対比

2. 製造業の各分野による分析
係わる具体的な製造業分野について分析した結果、家庭用電気用品の製造、自動車部品の製造、建築及び安全用金属製品の製造に係る案件が比較的多い。


家庭用電気用品に係わる案件においては、主に、羽なし扇風機、アイロン、携帯電話、調味料研磨器などにかかわっており、イギリス、ドイツの多国籍企業が比較的多い。自動車部品に係わる案件においては、主に、エンジン駆動装置、ディスクブレーキ、インストルメント、空調システムなどにかかわっており、日本、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、ベルギーの多国籍企業が比較的多い。建築及び安全用金属製品に係わる案件においては、主に、蛇口、盗難防止錠、ステンレス管の接続器具などにかかわっており、イタリア、アメリカ、ノルウェー、キプロス、台湾の多国籍企業が比較的多い。


製造業の各分野における案件数対比(トップ10)

3.多国籍企業の国別に関する分析 
上記で述べたのように、2013年~2015年の多国籍企業に係る専利権侵害訴訟の結審案件は、総計234件である。その中、一審案件は、125件で、二審案件は109件である。一審案件においては、イギリス、ドイツ、日系企業に係わる案件が比較的多く、二審案件においては、ドイツ、アメリカ、イギリス企業に係わる案件が比較的多い。

 

一審、二審案件数

(1)一審案件
一審案件の総件数から見て、イギリス企業に係わる案件が一番多い。それは、同一製品に関する訴訟が幾つかがあるからであり、例えば、イギリスのダイソン社は、羽なし扇風機について、20件の訴訟を提起した。
また、ドイツ、日本、アメリカと中国との貿易活動は頻繁になっているため、ドイツ、日本、アメリカ企業に係わる案件も比較的多い。

 

各国の一審案件数の対比


一審案件に係る各国の企業数対比

(2)二審案件
案件の絶対数から見ると、中国で二審手続きを行った多国籍企業は、ドイツ企業が比較的に多く、総計28件である。その中、ドイツ企業が上訴人としたケースは、20件であり、また法院に全ての訴訟請求を認めることを請求した。代表的な企業は、ドイツのボッシュ社とNeoperl社である。


多国籍企業の絶対数から見ると、即ち、同一の企業に係わる多数の訴訟を1件に見なせば、中国で権利侵害訴訟を行った多国籍企業は、米国とドイツ企業が比較的多い。


各国の二審案件数の対比



二審案件に係る各国企業数の対比

4.多国籍企業の国別と専利権種類
多国籍企業に係る専利権侵害訴訟の一審案件は、主に発明、意匠であり、実用新案が比較的少ない。


一審案件に係わる多国籍企業の国別と専利権種類(トップ5)

多国籍企業に係る専利権侵害訴訟の二審案件も、主に発明、意匠であり、実用新案が比較的少ない。
 

二審案件に係わる多国籍企業の国別と専利権種類(トップ5)

多国籍企業に係る専利権侵害訴訟案件は、主に発明、意匠であり、実用新案が比較的少ない。その理由は、以下の二点にある。第一、多国籍企業の中国における専利出願は、主に発明であり、実用新案の出願件数は少ない。第二、多国籍企業は、製品の実用性だけを求めているのではなく、製品の美観性、便利性ももとめているため、意匠の保護意識も高い。


5.管轄人民法院
一審案件において、上海市第一中級人民法院、浙江省寧波市中級人民法院、広東省広州市中級人民法院に受理された案件は、比較的多い。その中、寧波市中級人民法院に受理された案件数が比較的多いのは、数多くの小家電製造メーカが寧波市にあり、それらのメーカは、コア技術が比較的少なく、革新能力及び研究開発能力も低いため、被告として提訴されたケースが多いからである。


二審案件において、広東省高級人民法院、上海市高級人民法院、北京市高級人民法院に受理された案件は比較的多く、それぞれ、23%、23%、21%を占めている。これは、上記高級人民法院に管轄された中級人民法院に審理された一審案件が多いからである。


各人民法院に受理された一審案件の件数対比(トップ10)


各人民法院に受理された二審案件の件数対比

6.一審案件の原告
2013年~2015年の多国籍企業に係る専利権侵害訴訟一審案件において、結審件数で統計すると、原告が多国籍企業である案件は114件であり、91%を占めている。原告が中国企業、中国の個人である案件は、それぞれ、5件と6件であり、それぞれ4%と5%を占めている。原告が多国籍企業である案件は比較的多いのは、多国籍企業の権利保護意識が強いからである。

一審案件の原告

7.一審結果について
2013年~2015年の多国籍企業に係る専利権侵害訴訟一審案件は、総計125件である。原告が勝訴したのは、111件で、89%をしめており、その中、原告が多国籍企業で勝訴したのは、102件で、82%を占めている。それに対して、原告が多国籍企業で敗訴したのは、12件である。


一審案件において、原告の勝訴した比率は、原告の敗訴した比率を遥かに超えている。

原告勝敗訴比率及び勝訴における多国籍企業と中国企業の比率


原告勝敗訴比率及び敗訴における多国籍企業と中国企業の比率

(1)原告勝訴の案件について
原告勝訴の案件を受理した法院は、主に10箇所がある。その中、浙江省寧波市中級人民法院の受理件数は、17件、上海市第一中級人民法院の受理件数は、16件、広東省広州市中級人民法院の受理件数は、13件である。

各人民法院の受理件数対比(トップ10)
(原告勝訴の一審案件)

原告勝訴の一審案件に係っているのは、主に、イギリス、ドイツ、日本、アメリカの多国籍企業である。例えば、イギリスのダイソン社は、羽なし扇風機について、中国企業を被告として、20回の訴訟を提起し、マーティン社は、音響機器について、中国企業又は個人を被告として、5回の訴訟を提起した。ドイツのボッシュ社は、中国企業を被告として7回の訴訟を提起し、Neoperl社は、蛇口について、中国企業を被告として5回の訴訟を提起した。


各国案件数の対比(トップ10)
(原告が勝訴した一審案件)

(2)原告敗訴の案件について
原告敗訴の案件の受理法院は、主に9箇所がある。その中、、上海市第一中級人民法院の受理件数は、4件、浙江省寧波市中級人民法院と江蘇無錫市中級人民法院の受理件数は、それぞれ2件であり、その他の人民法院は、それぞれ1件を受理した。

各人民法院の受理件数対比(トップ10)
(原告が敗訴した一審案件)

原告敗訴案件に係わる多国籍企業は、それぞれ十ヶ国/地域に所属する。例えば、ドイツのOerlikon社、rowenta-werkegmbh社、スイスのBobst (Shanghai)社、リッター機械会社、フィンランドのノキア社などがあった。

各国案件数の対比
(原告が敗訴した一審案件)

ここで、注意すべきのは、上記敗訴案件の件数が少ないため、上記データから関連人民法院の判決傾向を読み取れにくいことである。

(3)多国籍企業と中国企業/個人の勝訴率
一審案件の場合、多国籍企業が原告である案件は、117件であり、その中、勝訴したのは、102件で、敗訴したのは、12件であるので、勝訴率は、89%である。それに対して、中国企業/個人が原告である案件は、11件であり、その中、勝訴したのは、9件で、敗訴したのは、2件であるので、勝訴率は、82%である。

多国籍企業と中国企業/個人の勝訴・敗訴対比

(4)同一の多国籍企業が二回以上の訴訟を提起した案件
同一の多国籍企業が二回以上の訴訟を提起した案件の中には、イギリスのダイソン社が、中国の7箇所の人民法院で21回の訴訟を提起し、ドイツのボッシュ社が中国の2箇所の人民法院で7回の訴訟を提起し、日本のSMC株式会社が中国の4箇所の人民法院で4回の訴訟を提起し、これらの全てが勝訴となった(表1は、多国籍企業が中国で訴訟を提起した結果統計表である)。
多国籍企業が敗訴した案件は、比較的少なく、総計6件である。例えば、ドイツのOerlikon社が、蘇州市中級人民法院と無錫市中級人民法院で合わせて三回の訴訟を提起し、無錫市中級人民法院で提起した二回の訴訟は、敗訴した。スイスのリッター機械会社が上海市第一中級人民法院で二回の訴訟を提起し、一回勝訴、一回敗訴した。フィンランドのノキア社が上海市第一中級人民法院で二回の訴訟を提起し、全て敗訴した。ベルギーのINVE社が済南市中級人民法院と石家庄市中級人民法院で二回の訴訟を提起し、済南市中級人民法院で提起した訴訟は、敗訴した。


(5)各人民法院に受理された案件の原告勝敗訴分析
一審案件の受理件数が比較的多いのは、上海市第一中級人民法院、寧波市中級人民法院、広州市中級人民法院、金華市中級人民法院などの10箇所の法院である。その中、上海市第一中級人民法院に受理された一審案件において、原告の勝訴率は、80%で、杭州市中級人民法院に受理された一審案件において、原告の勝訴率は、75%である。無錫市中級人民法院に受理された一審案件において、原告の勝訴率は、67%で、北京市第二中級人民法院に受理された一審案件において、原告の勝訴率は、83%である。その他の6箇所の人民法院に受理された一審案件において、原告の勝訴率は、ほぼ100%である。


各人民法院に受理された案件の原告勝敗訴の対比(トップ10)

8.一審判決の賠償額
一審案件において、賠償額が50万元(人民元)以下(侵害行為を停止させるための合理的な支出を含む)である案件は、90%を超えた。その中、賠償額が1~5万元、6~10万元、11~50万元の一審案件は、それぞれ32%、31%、32%を占めている。賠償額が100万元を超えた案件は、3件であり、最高の賠償額は、484万元であった。
中国<専利法>の第65条に専利権侵害の賠償額の算定方法が規定されている。即ち、(1)権利者の損失、(2)侵害者に得られた利益、(3)専利権の許可使用費と(4)法定賠償金により、算定する。ここで、賠償金が1万元以上100万元以下である場合、(1)と(2)の算定方法により賠償金を計算することは、比較的多い。
中国における権利保護の「賠償額が低い」問題を解決するために、<中国専利法第四回改正草案>において、故意による権利侵害対する処罰性の賠償制度を増設し、故意による権利侵害の賠償金を現行<専利法>の第65条に規定された賠償額の2~3倍に引き上げた。また、団体的な侵害行為、重複的な侵害行為などのような故意による侵害行為に対する行政処罰を強化する。新しい専利法は、2016年に施行される予定である。
 

一審判決の賠償額対比

一審案件において、賠償額が50万元以上の案件は、5件であり、原告は、全て多国籍企業で、また全ては発明専利に係る侵害紛争案件である。ここで、賠償額が50万元以上の案件について、分析を行う。

一審において原告が勝訴し、得た賠償額の対比(50万以上)

(1)(株)ケーヒン・サーマル・テクノロジー VS 一汽-法雷奥汽车空调有限公司
係争対象製品:車用冷却器

賠償額算定方法の確定:
係争対象製品の販売量、被告1の販売価額、原告の一つの特許製品による合理的な利益などを参考し、原告の実際損失額を算定する。実際の損失額が確認でき、また、原告は係争専利権の実施許諾をし、ライセンス費を取る証拠を提供していないため、ライセンス費の倍数によって、賠償額を確定する主張に対して、法院は支持しない。


(2)BRUKER VS 衡水奇佳工程材料有限公司
係争対象製品:格子窓/格子カバー

賠償算定方法の確定:
被告の公式サイトに記載されている関連データを、被告の権利侵害による利益を計算する重要な参考データとする。なお、当該サイトに記載されている年間製造量が販売量であるとは限らないこと、製品の販売量が年毎に変化することを考慮し、原告が計算した賠償額の上で、少し減らした。


(3)莱雅公司 VS 减字国际贸易有限公司
係争対象製品:洗顔器

賠償算定方法の確定:法院は被告専利権の種類、請求の範囲、係争対象製品の販売状況、社会公衆が原告の専利製品に対する認知度などを総合的に考慮し、原告の本案件によって被った損失を確定した。 


被告が権利侵害によって得た利益に基づいて損失を確定する主張が支持されなかった、その理由が以下のようである。
1、原告は公式サイトに記載している権利侵害製品の販売量に基づいて計算すると主張したが、その販売量が実際の販売量であるとは限らないので、参考だけになる。
2、原告は公式サイトに記載している類似製品の平均価額と実際の単価との差に基づいて計算すると主張したが、当該計算方法が客観的ではない。


(4)戴森技术有限公司 VS 宁波宏钜电器科技有限公司
係争対象製品:羽なし扇風機

賠償算定方法の確定:挙証が難しい、訴訟が時間が掛かるなどのことを考慮し、双方当事者が私法自治の範疇内で権利侵害賠償額を確定する事ができる。従って、本件は、調和協議における双方の定めた賠償額に適用する。本件について、双方が民事調和書において、被告が権利侵害している場合、案件ごとに100万件を支払う、又は、権利侵害製品ごとに1000元を支払う、算定方法は原告より決めることに合意した。


(5)哈尔德克斯制动产品股份公司 VS 武汉元丰汽车零部件有限公司
係争対象製品:自動車用ディスクブレーキ

賠償算定方法の確定:
原告が権利侵害によって被った実際の損失、又は被告が権利侵害によって得た利益を確定することが困難であり、被告専利権のライセンス費を参考することもできないため、法院は、被告専利権の種類、被告製造・販売した権利侵害製品の規模と方式、権利侵害製品の価額、権利侵害時間などを総合的に考慮して賠償額を確定した。

 

上述5件の案件において、権利者の損失によって賠償額を確定するのは、2件あり、権利侵害者が得た利益によって販売額を確定するのは、1件あり、法的賠償によって賠償額を確定するのは、1件あり、合意した定めによって賠償額を確定するのは、1件である。また、2016年4月1日より施行された「最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」には、賠償額又は賠償額の計算方法の約束について明記した。
権利者の挙証について、多国籍企業(原告)は、その専利権が有効であること、且つ、係争対象製品がその専利権の保護範囲に含まれることを証明したとともに、権利侵害者の公式サイト、ネット販売会社、出版物、パンフレット、中国輸入出商品取引会などを通じて、係争対象製品の販売情報、特に売り上げ、単価を取得し、権利侵害者(被告)が利益を得たことも証明した。


9、二審判決の分析
二審案件において、訴訟を却下し元の判決を維持したのは、75件であり、約90%を占めている。また、元の判決を取り下げたのは、7件であり、元の判決の一部を維持したのは、5件である。
今回に統計した二審案件において、元の判決を取り下げたのは、比率が低く、6%しかない。一審判決は双方の当事者に対しても、大きいな影響を与え、二審においても約90%の一審判決を維持した。即ち、二審より、一審のほうがもっと重要である。


二審判決の対比図

10、イギリス、ドイツ、日本の多国籍企業
多国籍企業の専利権侵害訴訟案件は、主に製造業に属する。また、これらの多国籍企業が主にイギリス、ドイツ、日本(下記のとおり)に所属する。

各国の製造業案件件数の対比

(1)イギリスの多国籍企業に係る専利権侵害訴訟の一審案件
  専利権侵害訴訟に係る企業が5社であり、案件数の差が大きい。そのうち、DYSONの案件数が一番多く(21件)、主な係争対象製品が羽なし扇風機である;次は、瑪田音响有限公司(5件)、泰克納顯示器有限公司(4件)、主な係争対象製品が音響機器、接続器;最後には、坦萨土工合成材料(中国)有限公司(2件)、马蒂布兰兹贸易(蘇州)有限公司(1件)、主な係争対象製品が排水トレンチカバー、歯ブラシ包装用カードである。

イギリスの多国籍企業の案件数対比

(2)ドイツの多国籍企業の専利権侵害訴訟の一審案件
専利権侵害訴訟に係る会社が11社あり、案件数の差も比較的小さい。そのうち、BOSCH(7件)、主な係争対象製品が電気ハンドハンマ;neoperl(5件)、主な係争対象製品が蛇口;OerlikonTextileGmbH&Co(3件)、主な係争対象製品が高速弾性糸器の輸送装置;约瑟夫福格勒公司(2)、主な係争対象製品が機器操作器;その他の会社各1件。

ドイツの各多国籍企業の案件数対比

(3)日本の多国籍企業の専利権侵害訴訟の一審案件
専利権侵害訴訟に係る会社は7社あり、案件数の差が比較的小さい。SMC株式会社(4件)、主な訴訟製品が電磁弁であり、本田技研工業株式会社(3件)、主な係争対象製品がオートバイであり、株式会社多美(2件)、主な係争対象製品がロボット用リモートコントロール、その他の会社各1件である。

日本の各多国籍企業の案件数対比

以上、専利権侵害訴訟案件において、イギリスの多国籍企業が少ないが、戴森技术有限公司、玛田音响有限公司などのイギリスの多国籍企業が訴訟を何回も提起したため、イギリスの多国籍企業の専利権侵害訴訟案件の件数が比較的多く、主に関連の製造分野に係わる。ドイツの多国籍企業も多いが、それぞれの多国籍企業より提起した訴訟の件数の差が小さい、また、係わる製造分野の範囲が広い。


三、まとめ

1、専利権の種類・分野
多国籍企業の専利権侵害訴訟は、主に発明専利、意匠に係る案件であり、実用新案権に係る案件が比較的少ない。その一つの理由として、多国籍企業の中国における出願が主に発明専利である。もう一つの理由は、発達した国家の工業品外観設計の発展時間が長いので、多国籍企業が実用性だけではなくて、製品の美観性・ヒューマニゼーションも求めている、また意匠権保護意志も強いからである。


専利権侵害訴訟案件は、製造、卸売り、小売り、電力、熱力、天然ガス及び水産業、サービス業などの6個の業界に係り、約90%が製造業の分野に係わる。また、係わる製造業の具体的な分野は、主に家庭用電気用品、自動車用部品、建築、安全用金属製品である。係わる製品の種類が多く、その内、羽なし扇風機、アイロン、客車計器、蛇口、防犯扉などを含む。


2、多国籍企業の国別
イギリス、ドイツ、日本の多国籍企業の専利権侵害訴訟に係る一審案件の件数が比較的多い。そのうち、イギリスの多国籍企業の案件数が比較的少ないが、1社の多国籍企業が多数の訴訟を提起する案件が多い。ドイツ、日本の多国籍企業のが多いが、各企業の訴訟案件数には、差が小さい、また、係わる権利侵害分野が多い。


アメリカ、ドイツの企業は、中国において権利侵害訴訟の二審案件が多い、そのうち、ドイツの多国籍企業は自分の全ての主張を支持させるため、一審の判決に不服申し立て(上訴)を提起することが多い。


3、案件を審理した法院と地域
一審案件の場合、上海市第一中級人民法院、寧波市中級人民法院、広州市中級人民法院に受理された案件が多い。そのうち、寧波市中級人民法院で受理された案件が一番多い。それは、寧波市に小家電製造メーカーが数多くあり、よく被告として提訴されたからである。二審案件の場合、、広東高級法院、上海高級法院、北京高級法院に受理された案件が多い。


一審案件の場合、原告が勝訴した比率は、原告の敗訴した比率を遥かに超えている。また、原告が勝訴した案件において、被告が多国籍企業の案件数は、被告が中国企業の案件数を遥かに超えている。寧波市中級人民法院、上海市第一中級人民法院、広州市中級人民法院に受理された案件が多く、主にイギリス、ドイツ、日本の多国籍企業である。多国籍企業が原告として提訴された117件の案件において、勝訴したのは102件で、敗訴したのは12件で、勝訴率89%である。


また、一審案件の受理法院において、上海市第一中級人民法院の原告勝訴率が80%、杭州中級法院の原告勝訴率が75%、無錫中級法院の原告勝訴率が67%、北京市第二中級人民法院の原告勝訴率が83%、寧波市、広州市、金華市、深圳市、スワトウ市中級人民法院と上海市第二中級人民法院の原告勝訴率が100%である。


二審案件の場合、元の判決を取り下げたのは、6%しかなく、約90%の判決を維持した。従って、双方の当事者にとって、一審判決が非常に重要である。


4、賠償額
一審案件の場合、原告が多国籍企業である案件が多い、原告が中国企業/個人の案件が少ない。また、賠償額が50万元以下(侵害行為を停止させるための合理的な支出を含む)である案件は、90%を超え、賠償額が50万元以上である一審案件が5件である。そのうち、日本の株式会社京浜冷暖テクノロジーが中国第一自動車集団公司のValeo自動車空調有限公司を告訴する案件などの専利権侵害訴訟において、賠償額が484万元に達する。


専利法及び関連司法解釈には、複数の賠償額の算定方法を記載した。権利者が賠償額の算定方法を主張する場合、十分に挙証し、法院の支持を得なければならない。多国籍企業の場合、その専利権が有効である、且つ係争対象製品がその専利権の保護範囲に含まれることを証明するとともに、権利侵害者の面から、権利侵害者の公式サイト、ネット販売会社、出版物、パンフレット、中国輸入出商品取引会などを通じて係争対象製品の販売情報、特に売り上げ、単価などについて挙証しなければならない。


「賠償額が低い」という問題を解決するには、「中国専利法第4回改正草案」に故意による権利侵害行為に対して、賠償額上限を引き上げ、共同権利侵害行為、権利侵害行為を繰り返す者に対して、行政処罰を強化すると記載している。また、2016年4月1日より施行された「最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」にも、「期間が長い、挙証が難しい、賠償額が低い」などの問題について詳しく規定された。


注: 

①分析期間:2013年~2015年
②2013-2015年の専利権(発明、実用新案、意匠)侵害紛争の民事判決書のデータ由来: www.openlaw.cn
 

付録一 製造分野-国家-企業対照リスト

付録二 多国籍企業が中国において提出した訴訟の敗訴統計

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