近年、中国の特許侵害訴訟は増加し続けており、2018年に、最高人民法院は680件の新たな特許侵害訴訟を受理し、2017年より103.6%増加した。2019年も増加し続けると予測される。 ただし、2019年の公式データは公開されていないため、本文では、オンラインデータベースに公開されている判決文書に記載のデータを使用して、2019年に最高人民法院および地方高級人民法院が判決した特許侵害訴訟を統計分析することにより、2019年の特許侵害訴訟の状況を予測してみる。
次に、データベースに収録されている最高人民法院と地方高級人民法院が開示した471件の特許侵害訴訟に基づき、訴訟種類、地理的分布、訴訟結果、および賠償額などから2019年の中国全体の特許侵害訴訟状況を分析する。
1. 南東部地域で発生した特許侵害訴訟が多い
2019年に、最高人民法院が開示した48件の特許侵害訴訟以外に、各地の高級人民法院が審理した特許侵害訴訟は図1からわかるように、主に広東省、江蘇省、福建省、広西省、江西省およびその他の南東部地域で発生した。即ち、特許権者は、通常、これら地域の法院を選択して訴訟を提起する。
2. 最高人民法院に再審請求が却下された案件の割合は高い
最高人民法院が審理した48件の訴訟のうち、80%の案件について、裁判が再審請求を却下するという判定を下した。なお、最高人民法院の判決結果は次の図2に示している。
上図に示している結果は2018年とほぼ同じである。2018年に最高人民法院が審決した1,243件の知的財産権再審案件(特許、商標などを含む)のうち、976件の再審請求が却下され、78.5%も占めた。総じて言えば、ここ2年間に、最高人民法院に却下された再審請求の割合が非常に高い。
3. 各地の高級人民法院が元の判決を維持した案件は6割以上でした
各地の高級人民法院が審理した案件のうち、六割以上の案件は元の判決が維持された。
4. 9割の案件の賠償額が20万元以下でした
それら案件の中、大部分は判決された賠償額が20万元以下でした。詳細状況は下記図4に示している。
5. 意匠と実用新案の割合が大きい。
特許侵害訴訟に係わる特許の種類は主に意匠と実用新案であり、それぞれの割合は55%、36%である。その原因として、意匠又は実用新案は発明特許より容易に模倣され、しかも侵害行為を行うコストが比較的に低いからである。
6. 発明特許に係わる訴訟の賠償額が比較的に高い。
賠償額が100万元以下である特許侵害訴訟のうち、意匠に係わる案件が半分以上も占めたが、その賠償額が低い。なお、賠償額の増加に従って、意匠に係わる侵害訴訟の件数も減少しつつある。これに対して、発明特許に係わる侵害訴訟の割合が増加している。詳細は図6に示している。
まとめ
全体から見ると、2019年の特許侵害訴訟の賠償額が依然として低かった。特に意匠と実用新案に係わる侵害訴訟の賠償額が発明特許より更に低い。各地高級人民法院、及び最高人民法院が元の判決を維持した案の比率が高く、特に最高人民法院の維持率が最も高い。したがって、特許侵害訴訟の一審と二審に十分に重視する必要がある。また、各地域において、市場が活発すれば活発するほど、特許侵害訴訟が多い。したがって、企業は市場活動に参加することが多ければ多いほど、特許保護への重視が高くする必要がある。