機能的特徴に関わる事例と実践
時間: 2022-01-28 康雲 アクセス数:

前書

特許保護範囲の確定は、実質的に、特許権者と公衆利益のバランスを取るためである。「中華人民共和国特許法」四回目の改正版(以下、「特許法」と略称する)の第64条には、「特許又は実用新案の保護範囲は、そのクレームの内容に準じ、明細書及び図面がクレームの解釈に用いることができる。」と規定されている。したがって、特許請求の範囲は解釈が必要であり、クレームに直接記載されている内容はその保護範囲を確定する唯一の根拠にならない。なお、クレームを解釈する際に、クレーム、特に機能的特徴に更なる限定内容を導入する場合が多い。


本稿では、具体的な事例を紹介することにより、中国の実務における機能的特徴の理解と適用を説明する。

 

関連する司法解釈

「最高人民法院による特許権侵害をめぐる係争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(一)」(以下、「司法解釈(一)」と略称する)第4条には、「請求項において機能若しくは効果を以って記載された技術的特徴について、人民法院は明細書および図面に記述された当該機能若しくは効果の具体的な実施形態、及びそれと同等の実施形態と結び付けた上で、当該技術的特徴の内容を確定しなければならない。」と規定されている。

 

「最高人民法院による特許権侵害をめぐる係争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」(以下、「司法解釈(二)」と略称する)第8条には、「機能的特徴とは、構造、成分、手順、条件又はその間の関係などについて、それが発明創造において果たす機能又は効果を通じて限定を行う技術的特徴をいう。ただし、当業者が請求項の閲読のみを通じて、前述の機能又は効果の具体実施形態を直接且つ明確に確定できる場合はこの限りでない。」と規定されている。


関連する事例

事例1 蘇州泰高煙突科技有限公司、蘇州雲白環境設備股份有限公司などの特許権侵害民事訴訟の再審審査民事裁決書、(2020)最高法民申6585号

 

対象特許権の請求項1に、「下部のステンレス鋼内筒(201)の上部と中部のステンレス鋼内筒(202)上部は、それぞれ横方向に固定された縦方向のスライド構造を介して炭素鋼外筒(1)に接続されており」と限定されている。

 

本件において、二審法院(最高裁、知的財産権法定)と再審法院(最高裁、民三廷)とも、その中の「横方向に固定された縦方向のスライド構造」が機能的特徴であると認定した。再審法院は下記のように意見を述べた。請求項1の「横方向に固定された縦方向のスライド構造」という表現が記述的な記載であり、当業者はこれに基づいて上記機能又は効果を実現する具体的な実施形態を直接で明確に確認することができない。したがって、当該技術的特徴が機能性を限定する技術的特徴であるため、明細書と図面に記述された当該機能又は効果の具体的な実施形態及び同等な実施形態と結び付た上、当該技術的特徴の内容を確定すべきである。


当該技術案において、外筒に1つ又は2つの内筒を設けることができ、内筒が外筒の中で横方向に固定され、縦方向にスライド可能のよう設定されている。最高人民法院は、明細書の記載に基づいて、2つの内筒の場合について、機能的特徴「横方向に固定された縦方向のスライド構造」の内容を確定するために明細書に記載の「スライディングピボット」「スライディングスリーブ」「スリーブ固定板」の三つの構造を導入した。なお、明細書には、1つのの内筒の場合の実施形態が開示されていない。また、最高人民法院は当業者の理解を導入し、「当業者は、明細書と図面に記載されている比較的複雑な2つ内筒の場合の実施形態を読んだ上、請求項と明細書に対する理解ならびに公知技術と慣用技術手段に基づいて、横方向に固定された縦方向のスライド構造がより簡単である1つの内筒の場合の実施形態を直接且つ明確に得ることができる。」と認定した。即ち、1つの内筒の技術案において、「スリーブ固定板」を導入して機能的特徴の内容を確定する必要がない。


上記から見ると、中国の実践において、ある技術的特徴は機能的特徴であると認定されれば、特許請求の範囲を縮小するために必ず新たな暗黙の技術的特徴が導入される。これは特許権者にとって不利である。一方、法院は、特許請求の範囲を縮小するために簡単に具体的な実施形態の全ての記載を用いることではなく、その中の機能又は効果の実現に必要な特徴を請求項の機能的特徴の解釈に導入して暗黙の技術的特徴を形成することである。また、法院は、必要に応じて、当業者の理解に基づいて、明細書に記載されていない適応的特徴を暗黙の技術的特徴とする。なお、裁判官が機能的特徴の範囲を認定する際に、明細書にある限定的でない記述的文字の記載は、一定的な有益な作用を果たす。


事例2 アモイ卢卡斯汽車配件有限公司、アモイ富可汽車配件有限公司の特許権侵害訴訟二審民事判決書、(2019)最高法知民終2号

 

対象特許の請求書1には、「前記閉位置では、前記ロック部材の弾性変形を防ぎ、コネクタをロックするよう、前記安全キャッチがロック部材に対して伸びている。」という技術的特徴が開示されている。


一審判決において、上海知的財産権法院は下記のように認定した。上記技術的特徴には、全キャッチとロック部材(即ち、弾性部材)との間の方向及び位置関係だけが開示されている。当該方位関係が、前記ロック部材の弾性変形を十分に防ぐことができない。また、当業者が請求項を読むことのみにより、「前記ロック部材の弾性変形を防ぎ、コネクタをロックする」という機能を実現できる技術案を直接且つ明確に確定できない。したがって、上記技術的特徴は機能的特徴である。更に、法院は、明細書に記載の「コネクタのロックは、爪の外面に沿って伸びるキャッチの垂直側壁の内面によって確実に行われるため、キャッチは爪がコネクタから横方向に変形することを防ぐ。そのため、コネクタは鈎状端から逸脱することができない。」特徴が当該機能を実現するために欠かせない技術的特徴であるため、当該部分の内容が上記機能的特徴を限定するために用いるべきであると述べた。


最高人民法院は、下記の意見を述べた。「ある技術的特徴に、発明の技術案の特定構造、組成、手順、条件又はそれらの間の関係などが限定又はそれとなく含まれている場合、当該技術的特徴に実現できる機能又は効果も限定されているとしても、原則として、上記司法解釈に記載の機能的特徴に属しなく、機能的特徴として侵害対比に用いられることができない。」本件において、上記技術的特徴には、実際に、安全キャッチとロック部材との間の位置関係が限定されており、また特定構造の「前記安全キャッチがロック部材に対して伸びている」がそれとなく含まれている。当該方位と構造の作用として、「前記ロック部材の弾性変形を防ぎ、コネクタをロックする」ことである。最高人民法院は、「上記技術的特徴の特徴は、位置関係と構造も限定したとともに、当該位置関係と構造の機能も限定したことである。しかも、当該位置関係と構造、及びその機能を結び付て理解しないと、当該位置関係と構造の具体的な内容を明確に確定することができない。このような『方位又は構造+機能性記述』の技術的特徴には、機能に対する記述があるが、実質的に方位又は構造の特徴であるため、上記司法解釈に記載の機能的特徴ではない。」と認定した。


よって、当該技術的特徴には、構造内容も限定されているし、機能の内容も限定されている。しかも、構造内容と機能内容を一体化にすれば、当該技術的特徴が機能的特徴であると認定された場合の保護範囲の過小解釈を避けることができる。


結論

上記の事例から見ると、中国の司法実践において、機能的特徴の認定は、請求項の保護範囲の確定に大きな影響がある。法院は、機能的特徴を認定した後、その内容を確定する際に、特許権者と公衆との利益のバランスを取るために、簡単に実施例の具体的な内容により侵害判断を行うことではなく、機能的特徴と直接に関連している技術ポイントを抽出して機能的特徴の内容を確定することである。したがって、特許権者にとって、クレームを作成する時、なるべく機能的特徴を含まないようにし、また、必ず機能と効果による限定が必要な特徴ついて、なるべく構造、組成、手順、条件又はそれらの間の関係に関わる内容を含めば、訴訟等のリスクを低減することができる。並びに、明細書でこれらの内容についてある程度の説明を記載すれば、侵害判定でクレームの保護範囲を確定する際に、更に有利になる。

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