中国特許審査指南の改正及び実務における対応
時間: 2017-07-05 アクセス数:

北京康信知識産権代理有限公司 弁理士 田喜慶

概要:中国国家知識産権局は2017年3月2日に「特許審査指南」改正に関する決定を公布した。改正後の特許審査指南は2017年4月1日から施行されることになった。今回の改正はビジネスモデル特許、コンピュータプログラムに係わる請求項、無効審判手続きにおける特許請求の範囲の補正方式等のホットな課題に係わっているので、業界内で広く注目されている。本文では、今回の特許審査指南の改正による特許出願、特許訴訟等の実務に対する影響を分析し、出願人と特許権者に適切な対応策を紹介する。

一、序文
現行の中国「特許審査指南」(以下、「指南」と称する)は2010年に施行されてから合計3回の改正があった。第1回の改正は2013年に行われ、実用新案特許出願における明らかな新規性及び重複授権の審査、意匠特許出願における明らかな既存デザイン及び重複授権の審査に係わった。第2回の改正は2014年に行われ、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)製品のデザインを保護対象にした。

第3回の改正、即ち今回の改正は、多方面の内容に係わり、前の二回の改正より度合が大きい。ビジネスモデル特許、コンピュータプログラムに係わる請求項、無効審判手続きにおける特許請求の範囲の補正方式等のホットな課題に係わっている。以下、読者が全面的に理解出来るよう、改正内容を紹介しながら、改正点を解析する。また、特許出願や特許訴訟等の実務における対策案を提供することにより、特許権で自社製品をよりよく保護することに助力する。

二、指南の改正内容及び実務における対応
紙面の都合で、ここではビジネスモデル特許、コンピュータプログラムに係わる特許、無効審判請求段階の特許権者による特許請求の範囲の補正方式と、請求者による理由の追加や証拠の補充に関する規定のみ紹介する。読者のご参考になるよう、以下は、これらの内容をそれぞれ説明しながら、改正による特許出願、特許訴訟等の実務における影響を分析し、筆者の当該改正に対する見解を紹介する。

1、ビジネスモデル特許

1)改正点
「指南」第2部分第1章の「特許権を授与しない出願」部分に、「ビジネスモデルに係わる請求項について、ビジネスルールと方法の内容を含むとともに、技術的特徴も含む場合、わが国特許法第25条の規定に準拠して特許権の取得可能性を排除してはならない」という内容が追加された。

2)改正内容の説明
当該改正は元の指南の内容を改正したものではなく、コンピュータ及び/又はネットワーク技術で実現したビジネス内容に係わる発明特許出願について、その請求項に技術的特徴が含まれている場合、特許法第25条第1款第2項に記載の「知的活動の規則と方法」に属すると判断して排除することはない、ということを公衆に明確に説明する。
実際には、指南改正前の審査実践において、ビジネスモデルに係わっている特許出願について、単なるビジネスモデル特許である場合、審査官は特許法第25条の規定により審査して、特許権を付与しない客体であると判断するが、請求項にビジネスルールと方法の内容を含むとともに、技術的特徴も含む場合、審査官は特許法第2条第2項に記載の発明の定義に関する規定を満たすか否かを審査する。即ち、当該請求項における保護を求める技術案が、自然法則に適合する技術的効果を実現するよう、技術手段を利用して技術課題を解決するか否かを審査する。

3)実務における対応
今回の改正が行われる前、ビジネス実施等に係わる管理方法や制度について、審査官は、通常、特許法第2条第2項の発明の定義に関する規定により拒絶し、請求項に記載の技術案が解決しようとするものが技術課題ではないと判断した。これについて、今回の改正で明確に記載した。例えば、インターネット分野における各種のビジネスモデルに対する革新は、市場運行効果が良好でユーザ体験が優れる、またリソースの配置や移動の効率の向上、社会コストの節約、且つ社会福祉の増進ができる場合、特許保護客体とされることができる。
今回の指南の改正はビジネスモデル特許出願の進歩性に対する判断基準に係わっていなく、国家知識産権局(以下、SIPOと称する)も関連の解釈又は規定を発表していない。国内の銀行業界やインターネット業界の発展レベルを考慮し、進歩性判断基準として、ビジネスモデルに係わる請求項に記載の技術的特徴が非自明性を有しなければならないという欧州特許庁の審査基準を参照する可能性があると推測する。そうなると、日本のビジネスモデル特許に対する審査基準よりも少し厳しくなるであろう。但し、実践において具体的に如何に審査するかについては、期待しよう。
最も厳格な進歩性判断基準があっても特許権を取得できるように、明細書を作成する際、当該ビジネス方法を実現する技術手段、特に、各端末間の新しい認証方式や、新しいクラウド情報共有形態等の革新点のある技術的特徴を詳しく説明すると提案する。

2、コンピュータプログラムに係わる特許

1)改正点
「特許審査指南」第2部分第9章の「コンピュータプログラムに係わる発明特許出願の審査に関する若干の規定」を以下のように改正した。
a.「記憶媒体+コンピュータプログラムのプロセス」の請求項作成方式を認めた。
b.装置請求項の構成部がハードウェイ以外にプログラムも含むことができることを明確にした。
c.機能性限定と区別するように、仮想装置請求項の各構成部とされるモジュールがプログラムモジュールであることを明確にした。
仮想装置請求項とは、全てコンピュータプログラムのプロセスに基づいて、該コンピュータプログラムのプロセスの各ステップに完全に対応して一致する方式で、又は該コンピュータプログラムのプロセスを反映する方法請求項に完全に対応して一致する方式で作成した装置請求項を指す。

2)改正の説明
今回の改正が行われる前、コンピュータプログラムに係わる特許出願について、方法請求項と当該方法請求項に完全に対応する仮想装置請求項のみが特許権を取得することができた。ソフトウェア構成部分を含むとともにハードウェア構成部分も含む請求項は、通常特許権を取得することが極めて難しかった。このような規定は現在の科学技術発展の需要に適合できず、権利保護の需要を満たすこともできないため、今回の改正では、現行の特許法の枠を基に、幅広く改正した。
指南を改正した後、コンピュータプログラムのプロセスで限定した記憶媒体が保護客体となったが、コンピュータプログラムのプロセスで限定したコンピュータプログラム自体はまだ保護客体になっていない。この点は日本と異なっている。そして、ソフトウェアとハードウェアと結合する請求項の作成方式が認められた。このような請求項の発明ポイントはソフトウェア部分にあっても良く、ハードウェア部分にあっても良い。

3)実務における対応
中国特許法実施細則の規定により、出願人による自発的補正は、実体審査を請求する時期と、実体審査段階ヘの移行通知書を受領した日から三ヶ月以内の時期の2回の機会のみである。一方、実体審査段階において、出願人は審査意見に対する補正のみできるが、新しい請求項を追加することができない。
今回、コンピュータプログラムに係わる特許出願に対する規定を大幅に改正し、SIPOは当該部分について慎重に考慮した。SIPOは、指南改正に関する公開説明会で改正後の審査原則を明確にした。案件の審査はいずれも改正後の指南を適用すること、出願人に有益である原則に従い、審査中の案件に対する自発補正を許可することは、その審査原則である。つまり、審査中の案件について、特許法実施細則における自発補正に関する規定に合致していないものであっても、出願人によるコンピュータプログラムに係わる請求項の追加を許可することとした。
通常、日本の出願人のコンピュータプログラムに係わる特許出願には、本来コンピュータプログラム請求項と記憶媒体請求項を含んでいたが、中国で権利を取得するために、中国国内移行段階、又は実体審査段階でこのような請求項を削除してきた。現在、このようなコンピュータプログラムに係わる請求項が削除された審査中の案件について、これらの削除された請求項を特許請求の範囲に改めて追加することができるようになった。
従って、審査中の案件について、出願人は削除した記憶媒体請求項を特許請求の範囲に改めて追加することができる。更に、明細書にコンピュータプログラムを記録する記憶媒体が記載された場合、新規出願で提出した特許請求の範囲に記憶媒体請求項がないとしても、記憶媒体請求項を自発的に補充することができる。既に特許査定された案件又は拒絶査定された案件について、分割出願の期限を超えていない限り、分割出願により記憶媒体請求項、ソフトウェアとハードウェアを結合した請求項に対する保護を求めることができる。

3、無効審判請求の審査

1)改正点
「特許審査指南」第4部分第3章の「無効審判請求の審査」部分を改正した。

a.特許書類の補正方式に対する制限を緩和した。
特許権者による特許請求の範囲に対する補正は、請求項の削除、合併、技術案の削除以外に、他の請求項に記載の一つ又は複数の技術的特徴を当該請求項に追加することや明らかなミスを補正することも許可するようになった。

b.無効審判理由の追加と証拠の補充
指南改正前、通常、請求者が無効審判請求日から一ヶ月が過ぎた後に無効審判理由の追加又は証拠の補充は認められなかった。但し、特許権者が合併の方式で請求項を補正した場合には、無効審判請求日から既に一ヶ月が過ぎたとしても、請求者による無効審判理由の追加又は証拠の補充が許された。
指南改正後、特許権者が削除以外の方式で請求項を補正した場合、請求者は補正内容のみに対して無効審判理由を追加することができる。また、請求者は特許権者が反対の証拠を提示した場合のみ、証拠を補充することができる。

2)改正内容の説明
中国の無効審判手続きにおいて、請求項の補正方式に関する規定はいつも厳格であるので、公衆に明確な予期を与え、特許保護範囲と従来技術の境を容易に区別することができる。しかし、明細書作成能力の不足やライバル又は特許権侵害者の製品に関する予測の不足で、多くの特許権者は無効審判手続きにおいて特許権を行使するための特許請求の範囲に対する効果的な補正ができなかった。この問題は、近年の訴訟案件が急激に増加している状況において、更に注目された。これに対して、今回の改正では、特許書類の補正方式を適切に追加し、これは特許権者にとって非常に有益であると思われる。
また、通常、特許権者が請求項を補正した後、請求者は無効理由を追加、或は証拠を補充するが、指南改正後、請求者による無効理由の追加は、請求項の補正内容のみに対するものでなければならなく、また、証拠の補充は、特許権者が提出した反対の証拠のみに対するものでなければならない。よって、請求者が無効審判請求当時に提出すべき無効理由と証拠を後で追加することを回避することができるので、無効審判手続きが不合理的に延長されることを回避し、行政効率を向上させることもできる。

3)実務における対応
出願人(又は特許権者)としては、根本的には明細書作成能力を向上させ、請求項の構成の最適化に努力すべきだと思われる。改正後の指南によると、無効審判手続きにおいて従属請求項の一部の特徴を独立請求項に補充することを許可するが、無効請求者がこのような補正に対して出願当初の範囲を超えているという意見を補充する可能性もある。中国では、補正が出願当初の範囲を超えていること(新規事項の追加)に対する審査が極めて厳しく、補正後の独立請求項に係わる技術案が完全な技術案でなければならなく、また元の出願書類に記載されているものでなければならないので、このような補正は実務において比較的に難しい。したがって、特許権者は明細書を作成する際、無効審判手続きにおける補正を考慮すべく、請求項に含まれる各技術的特徴の実例の各種の組み合せをなるべく多く記載することを提案する。
また、無効審判手続きにおいて、明細書に記載の内容を特許請求の範囲に補充することができないので、多段階の保護を求めるために、特許請求の範囲を作成する際、明細書に記載された二次的な発明ポイントについて、なるべく多めに従属請求項に作成することを提案する。出願段階においては、所望の保護範囲を取得するために、競合他社の製品に関する動向を注目し、自発補正タイミングや審査意見に応答する時期を充分に利用して効率的に請求項を補正することを提案する。中国で、実体審査の手数料と年金は、請求項の数や独立請求項の数と関係ない固定金額であるので、費用について心配することはない。
無効審判請求者としては、今回の指南の改正で無効理由の追加や証拠の補充について制限が設けられたので、無効審判を請求する際に充分に調査、分析、及び理由陳述する必要がある。特許権者が従属請求項に記載の一部の特徴を独立請求項に補充した場合、請求者はその補正に対して、新規性、進歩性、補正が出願当初の範囲を超えている等の無効理由を補充することができる。特許権者の補正が出願当初の特許請求の範囲に記載の各技術的特徴を改めて組み合せることにすぎなく、新しい技術的特徴を追加していないので、このような補正に対する請求者による証拠の補充は認められない。一方、請求者は、補正後の請求項に対して、進歩性に対する評価における証拠の組み合せを調整することができ、公知常識の証拠を補充することもできる。

三、結論
ここ三回の改正はいずれも過渡期がなく、改正後の指南は直ちに適用された。前の2回の改正は実用新案と意匠の審査のみに係わり、実務上で比較的に簡単であったが、今回の改正は発明特許出願の審査に係わっているので、機会を見逃さないために、出願人が即時に対応する必要があると思われる。既存の特許出願を更に完備にすることは、新規出願を提出することより一層経済的で簡単であるからである。例えば、審査意見への応答を完了し、まもなく特許権を取得するようになる案件について、記憶媒体請求項を補充しようとする場合、早めに審査官に連絡すれば、通常、審査官は出願人に有利な方式で処理してくれるであろう。
指南の毎回の改正は、いずれも科学技術の発展に従って、特許保護のニーズに適応するために行われたものである。また、指南の改正は、米国、日本、ヨーロッパ等の先進国又は地域の法律規定を参考とした。よって、今後、中国で出願する際、将来性を考え、米国、日本、ヨーロッパ等の国家の特許ファミリーを参照して中国における出願を提出することができる。また、中国で出願する際に保護客体にならない請求項を削除する際に、今後の必要な補正を考慮し、明細書にはこれらの請求項に対応する内容の記載があることが必要である。
中国特許法の第4回の改正に伴って、中国での特許保護は一層強化され、特許取引、ライセンス、訴訟等の特許の活用も多くなり、応用中に明細書作成の不足や出願手続きにおける不足の問題が現れるおそれがあるものの、これらの問題により特許出願の品質もより高くなり、特許製品がよりよく保護されるようになると思われる。


参照文献
1、「特許審査指南」の改正に関する決定(2017)(第74号)
http://www.SIPO.gov.cn/zwgg/jl/201703/t20170302_1308618.html
2、改正後の「特許審査指南」は4月1日から施行される
http://www.SIPO.gov.cn/zscqgz/2017/201703/t20170306_1308644.html


 

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