特許権共有者が単独で特許を実施する場合の利益配分
時間: 2022-09-29 アクセス数:


——(2020)最高法知民終954号


裁判要旨

特許出願権又は特許権の共有者の間に権利行使に関わる約定がなく、共有者の一方が単独で特許を実施したが、その他の共有者は、特許権の共有を理由として、単独で特許実施による利益を配分することを出張する場合、人民法院はその主張を支持をしない。


キーワード

特許 侵害 共有 共有者単独実施 利益配分


案件経緯

上訴人の温州医科大学附属第一医院(以下、温州医院)と上訴人のシンセン市匯利斯通信息技術有限公司(以下、匯利斯通公司)との特許権侵害紛争案件に関わる特許(以下、本件特許)は、出願番号が201210235924.0であり、名称が「病院ロビーのセルフサービス端末」である。


温州医院は、「自社が匯利斯通公司と本件特許を共有しているが、匯利斯通公司が許可を得ずに、本件特許を無断で実施し、温州医院の権利を侵害したため、侵害を停止し、被疑侵害製品の在庫を廃棄し、温州医院の経済損失250.98万元及び権利行使に合理的な支出11.64万元を支払うようと匯利斯通公司に命じる」ことを請求した。


広東省シンセン市中級人民法院は一審において、「匯利斯通公司が法により単独で本件特許を実施することができるので、その単独実施が温州医院の特許権を侵害することにならない。また、本件が特許権侵害に関わる紛争であるため、温州医院の訴訟請求以外の『使用料配分』の問題について、処理しない。よって、温州医院の訴訟請求を却下する。」という判決をくだした。


温州医院は不服として、最高人民法院に上訴した。温州医院の「使用料の配分」の主張について、最高人民法院は2020年9月24日に上訴を却下し、原審判決を維持した。


裁判意見

最高人民法院は二審において、下記のように認定した。

 

特許法第15条の規定により、特許出願権又は特許権の共有者の間に特許権の行使に関わる約定がある場合、その約定に従う。約定がない場合、共有者が単独で実施する又は通常実施権を他人にライセンスすることができる。他人に実施権をライセンスした場合、その取得したライセンス費を共有者の間で配分すべきである。前項に規定の状況を除き、共有の特許出願権又は特許権を実施する際に共有者全体の同意を得なければならない。


したがって、その他の特許権共有者の同意を得ていない場合、一方の共有者が直接共有の特許権により利益を取得する方法は次の二つがある。一つは、単独で共有の特許権を実施する。もう一つは、通常実施権を他人にライセンスする。また、ライセンスする場合のみ、その他の共有者と利益を配分する必要があり、単独で実施する場合、その他の共有者と利益を配分する必要がない。

 

本件において、温州医院は一部の自動受付機に匯利斯通公司と温州医院が共同で開発したという表記があると主張したが、当該表記だけにより、匯利斯通公司が通常実施権をその他の病院にライセンスしたことを十分に証明できない。しかも、本件において、ライセンシーの病院が匯利斯通公司にライセンス費を支払ったことを証明できる如何なる証拠もない。


したがって、温州医院の「匯利斯通公司の本件特許の実施による利益を配分する」主張は事実根拠が欠如し、上記規定に合わない。

 

更に、温州医院は、「民法における共有者が共有財産に対して利益を共有するという規定により、自社が匯利斯通公司の本件特許の実施による利益を配分する権利がある」ことも主張した。


この主張に対して、最高人民法院は下記の意見を述べた。「中華人民共和国民法通則」(以下、民法通則)の第78条第2項には、「共同所有者は、共有財産に対して、権利を享有し、義務を負う」と規定されているが、当該規定が共有財産に対する一般規定である。一方、特許法の上記規定は、特許権が共有されている場合の各共有者の権益配分規則に関わる特別な規定であるため、特許法の特別規定を優先的に適用すべきである。

 

よって、温州医院が民法通則を根拠として提起した上訴請求は成り立てなく、当法院は支持しなかった。


出所:最高人民法院知的財産権法廷

返回顶部图标