管轄権異議濫用行為の認定と懲罰について
時間: 2022-06-29 孫芳 アクセス数:

我国の『民事訴訟法』第13条第1項に、「民事訴訟は、信義誠実の原則に従わなければならない」と規定されている。請求人が案件を受理した法院が管轄権を有し、管轄権異議を申し立てる事実、理由及び関連法律根拠が明らかに欠如することを知っているものの、訴訟の関連手続きを遅延させるなどの不正な目的により、管轄権異議を申し立て民事訴訟活動の正常な展開を妨害した場合、管轄権異議濫用であると認定する。


実務において、殆ど全ての被告が管轄権異議を「標準装備」(応訴策の一つ)として、利用している。また、法院が、実際の審判で濫用であると認定して懲罰した判例も非常に少ない。筆者は、中国裁判文書、知産宝などのウェイブサイトで27件の関連判例を閲覧したところ、26件が管轄権異議の濫用であると認定した。そのうち、22件が懲罰したが、残りの4件が警告した。また、会社に対する罰金は50,000元から300,000元まで、個人に対する罰金は5,000元から50,000元まででした。一方、反例として、1件がある。その判例において、法院が管轄権異議の濫用行為に対して罰金を科すことに、法律根拠が欠如するという意見を述べた。


以下、上述の判例から7件(罰金を科した判例4件、警告した判例2件、反例1件)を抽出して紹介する。


判例1 貴州省高級人民法院(2020)黔司懲1号決定

件名:建設工程施工契約紛争

被懲罰人:中国**有限公司

濫用行為:被懲罰人が、貴州省高級人民法院に先行の訴訟を提起したことから、本件建設工程契約紛争が不動産所在地の人民法院より管轄することを知っている、且つ認めた。しかしながら、その後、同一の建設工程プロジェクトに対して改めて提起した訴訟において、被懲罰人が管轄権異議を申し立てた。また、その申立が却下された後、管轄級別に違反する理由で再度に上訴した。

法院の意見:管轄権濫用が明らかであり、司法資源を無駄遣いし、民事訴訟の正常な展開を妨害した。

懲罰決定:罰金200,000元を科す。被懲罰人が再審を請求したが、最高人民法院に却下された。


判例2 北京市朝陽区人民法院(2020)京0105司懲2号決定

件名:金融貸借契約紛争

被懲罰人:中国華**有限公司

濫用行為:被懲罰人は、従来の複数の案件で自社の実際の経営地が北京朝陽区にあると陳述し、それらの案件を朝陽区人民法院より管轄することを要請したことがある。また、複数件の発効した裁定書により、朝陽区人民法院が被懲罰人に係る訴訟に対する管轄権を有することが確認できる。しかしながら、本件において、被懲罰人が、自社の登録地が北京市東城区であるという理由で管轄権異議を申し立てた。そして、朝陽区人民法院が審査してから、明らかに解釈した後、被懲罰人は、依然として、管轄権異議申立を撤回しなかった。

法院の意見:濫用の意図が明らかであり、しかも情状が極めて重いため、悪意による民事訴訟を妨害する行為に属する。

懲罰決定:罰金100,000元を科す。被懲罰人が再審を請求したが、北京第三中級人民法院は原審決定を維持した。


判例3 西寧市中級人民法院(2019)青01民轄終202号民事裁定

件名:仲介サービス契約紛争

被懲罰人:徐**氏

濫用行為:本件は、原告が提訴を撤回した後、改めて提起した訴訟である。本件の管轄権について、被懲罰人が元案件で管轄権異議を申し立て、上訴もしたが、全て却下された。そして、本件において、被懲罰人が同一な事実と理由で再度に管轄権異議を申し立て、また西寧市中級人民法院に上訴した、

法院の意見:上訴人の管轄権異議を濫用する行為に対して、原審法院より本件の法廷審理で懲罰を下す。

懲罰決定:詳細内容は確認できなかったが、少なくとも警告した。


判例4 福建省閩侯県人民法院(2018)0121司懲3号决定

件名:建設工程施工契約紛争

被懲罰人:中建**有限公司

濫用行為:管轄権について明確な約定があること、及び建設工程施工契約案件が専属管轄に属することを知っているものの、管轄権異議を申し立て、しかも上訴した。これらについて、法院は全て却下した。

法院の意見:本件の審理を3ヶ月も遅延させ、正常な民事訴訟秩序を乱したため、悪意による民事訴訟を妨害する行為に属する。

懲罰決定:罰金300,000元を科す。被懲罰人が再審を請求しなかった。


判例5 厦門市海滄区人民法院(2017) 閩0205司懲2号決定

件名:住宅賃貸借契約紛争

被懲罰人:厦門**有限公司

濫用行為:被懲罰人は同一の弁護士に先行と後行の2件の台湾に係る案件を依頼し、台湾に係る案件が受理法院より一括で管轄することを知っているものの、後行の案件(本件)において、管轄権異議を申し立てた。そして、異議申立が却下された後、更に上訴し、再度に却下された。

法院の意見:明らかに悪意があり……2件の案件を同一の弁護士に依頼した。その弁護士が専門知識を持って依頼人に正当な利益を求め、信義誠実原則に遵うことを依頼人に示すべきものの、訴訟権利を濫用して審判を妨害した。

懲罰決定:罰金50,000元を科す。


判例6 安徽省高級人民法院(2020)皖民轄終**号民事裁定書

件名:商標権侵害紛争

被懲罰人:巢湖市**佳易購スーパー

濫用行為:本件商標が馳名商標ではない理由で、本件を巢湖市人民法院に移管することを申し立てた。しかし、本件商標によると、本件商標が国家工商総局に認定された馳名商標である。一方、被懲罰人は、本件商標が馳名商標ではないことを証明する如何なる証拠も提出しなかった。

法院の意見:本件は、馳名商標の保護に関わるため、省会都市(省都)である合肥市の中級人民法院より管轄すべきである。また、例え一般の商標権侵害案件であるとしても、巢湖市人民法院より管轄するものではない。……上訴人が本件をを巢湖市人民法院に移管することを申し立てたのは、明らかに法律規定に反するので、管轄権異議の権利を濫用する行為である。

懲罰決定:詳細内容は確認できなかったが、少なくとも警告した。


判例7 最高人民法院(2019)最高法司懲復6号復議決定

件名: 借入契約紛争

復議請求人:林**氏

関連事項:林**氏が保証人として中江国際信托有限公司と管轄の約定をしておらず、管轄の約定を受ける意思も示さなかった理由で、管轄権異議を申し立てたが、却下された後、上訴しなかった。その後、江西省高級人民法院が直接(2019)贛民初54号罰金決定を下した。その決定では、林**氏が、契約の明確な約定があり、しかもその他の専属管轄などの事由がないものの、管轄権異議を申し立てたのは、訴訟を遅延させる主観的な悪意があり、訴訟権利を濫用し、民事訴訟における信義誠実の原則に違反したと認定し、100,000元の罰金を科すと判定した。林**氏が、当該決定に不服として、最高人民法院に復議を請求した。

復議の意見:「民事訴訟法第111条には、訴訟当事者など、民事訴訟を妨害する者に対して罰金を科すことができる状況について、明確に規定された。管轄権異議が、本条に規定の罰金などの強制措置を取ることができる状況に該当しておらず、しかも本条に列挙された条項が全て閉鎖条項である。……民事訴訟法に規定の罰金、拘留などの強制措置が公報制裁行為であり、「明確な規定がない場合懲罰をしない」基本原則を厳格に従わなければならないことを考慮し、民事訴訟法などの関連法律に明確な規定がないため、林**氏が管轄権異議申立行為に対して直接罰金を科すことは、法律根拠が欠如する」

復議決定:2021年3月8日に復議決定を下し、江西省高級人民法院の(2019)贛民初54号罰金決定を取り消した。


上記判例1~6及び列挙しなかったその他の懲罰判例から見ると、管轄異議の濫用であると認定できる状況として、通常、「当事者又は訴訟代理人が管轄権異議が成り立てないことを知っているものの、故意に申し立て、また、一審で却下された後、依然として上訴しし、客観的に訴訟手続きの遅延をさせ、訴訟活動の正常な展開を妨害した」ことを証明できる十分な証拠がある。当事者又は訴訟代理人にとって、管轄権異議申立は、応訴の対策として使用することを考えられるが、前提として、基本法律知識、基本事実を尊重しなければならない。なお、形式上で定めた管轄(専属管轄など)を挑戦する必要がある場合、なるべく反証を提出し、十分に詳細な理由を述べ、また、一審法院の釈明と審理意見を尊重したほうが良い。


また、判例7は、最高人民法院の2021年の判決であり、更に参考になる。この判例において、最高人民法院は、管轄権異議濫用行為を懲罰する法律根拠に対して、否定的な観点を持っているようである。その原因は、判例7における管轄権異議濫用行為の情状がより軽い、しかも一審で却下された後、上訴しなかったため、濫用になる否かはまだ議論の余地があると思われる。よって、管轄権異議の申し立ては、合法で合理的な範囲で行うことが根本である。また、判例7により、明らかに不適切な処罰について、当事者がなるべく復議を請求し、判例7を適切に引用して抗弁することを提案する。

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