「文理解釈による侵害」と認定されても、権利侵害が成り立てない可能性もある
時間: 2020-12-30 アクセス数:

被告製品が特許権の保護範囲内になるか否かを判断する際に、被告製品が特許請求の範囲に記載の全ての技術的特徴とそれぞれ対応且つ同じであれば、文理解釈による侵害が成り立てると認定する。通常、特許の保護範囲内であると判断された場合、権利侵害になるので、被告は侵害責任を負わなければならない。


 実践において、文理解釈による侵害が成り立てると認定されたとしても、逆転する可能性がある。これから、実際の判例をもって説明する。


 江蘇省南京市中級人民法院(以下、「一審法院」と称する)が公布した(2018年)蘇01民初185号判決書(以下、「一審判決」と称する)、と江蘇省高級人民法院(以下、「二審法院」と称する)が公布した(2018年)蘇民終945号民事判決書(以下、「二審判決」と称する)によると、文理解釈による侵害が成り立てると認定したとしても、更に具体的な技術背景を考慮し、また当業者の視野から発明の目的、解決しようとする技術課題、及び技術効果を考慮する必要がある。被告製品は特許請求の範囲に記載の全ての技術的特徴とそれぞれ対応したが、発明の目的、技術効果を実現できない場合、被告製品が特許請求の範囲外であり、被告が侵害による民事責任を負う必要がないと認定すべきである。次に、判例詳細を調査しながら説明する。


一審概要

I 技術案

 本件原告のMeyer Burger (Switzerland) Ltdは中国でZL201380028561.6号特許権を有する。その請求項1は下記の通りである。


【請求項1】

 ワイヤーソー(8)用のワイヤー管理システム(7)であって、

 ガイドによってカッティングエリア(13)を通すカッティングワイヤー(3)と、

 カッティングワイヤー(3)を前記ワイヤーソー(8)のカッティングエリア(13)まで供給するワイヤー供給ユニット(5)と、

 前記ワイヤーソー(8)のカッティングエリア(13)からカッティングワイヤー(3)を受け取るワイヤー受取ユニット(6)と、

を備え、

 前記ワイヤー供給ユニット(5)とワイヤー受取ユニット(6)の一つ又は二つは、一部の重なり合い巻線の中で少なくとも一部の前記カッティングワイヤー(3)を載せる少なくとも一つの回転可能な貯蔵スクロールバー(1)と、巻線の中で一時的に前記カッティングワイヤー(3)の一部を受け取る少なくとも一つの回転可能な保存スクロールバー(2)と、ワイヤーガイドユニット(9)とを含み、前記保存スクロールバー(2)の回転可能軸(2b)は、実質的に前記貯蔵スクロールバー(1)の回転軸(1b)と一致している、前記ワイヤーガイドユニット(9)は、前記保存クロールバー(2)におけるワイヤー巻線が互いに重なり合わない、或は/及び前記貯蔵スクロールバー(1)における巻線より、前記保存スクロールバー(2)における巻線が比較的に低い密度を有するように、前記カッティングワイヤー(3)をガイドする前記保存スクロールバー(2)に沿っている、

ワイヤー管理システム(7)。


 要するに、本件特許の請求項1に記載のワイヤー管理システムが本件訴訟に関わる重点技術的特徴は、一つの貯蔵スクロールバーと一つの保存スクロールバー(2)を含み、保存スクロールバー(2)における巻線が下記の一つを満足する。(1)互いに重なり合わない。(2)前記貯蔵スクロールバーにおける巻線より、前記保存スクロールバーにおける巻線が比較的に低い密度を有する。


II 発明の目的

 明細書を読み込めれば、本件特許の発明の目的が、前記ワイヤーがスクロールバーで相対的な移動することによる断線を防止するためにワイヤーの間の摩擦を克服することであると確定することができる。


III争点

 被告は、自社製品に本件特許の請求項1に記載の大部分の技術的特徴が含まれていることを認めた。なお、本件において、双方の争点は、「被告製品の保存スクロールバーに設けられている二層のワイヤー」が本件特許の保護範囲内であるか否かということにある。


 原告は、被告製品の保存スクロールバーに重なっている二層のワイヤーがあるが、巻線の密度が貯蔵スクロールバーにおける巻線より低いため(上記(2)を満足する)、請求項1の保護範囲内であると主張した。


 しかし、一審法院は、「特許の保護範囲を判断する際に、公平の原則と発明の目的に一致する原則に遵うべきであり、即ち、特許が克服しようとする技術欠陥に関わる技術案を特許保護範囲に入れてはならず、実現できない発明の目的、効果に関わる技術案を特許保護範囲に入れてはならない。」という意見を述べた。被告製品は、ワイヤーの間隔が0.1mmの二層ワイヤーに設置されており、ワイヤが互いに重なり合っているので、ワイヤーの間の摩擦を防止することができない。よって、本件特許に開示されているワイヤーの間の摩擦を克服するという発明の目的を実現することができない。したがって、被告製品は本件特許の保護範囲外である。という判決を下した。


二審概要

 原告は一審判決を不服として二審法院に上訴した。しかしながら、二審法院は、一審法院の判決を維持した。更に、本件特許の請求項1に記載の「前記貯蔵スクロールバー(1)における巻線より、前記保存スクロールバー(2)における巻線が比較的に低い密度を有する」(上記の(2))は特許の保護内容にならないと認定した。その理由は、次の通りである。


 先ず、本件特許の明細書には、先行技術の欠陥が「カッティングワイヤーがスクロールバーに巻き取られ、ワイヤーの間の多重部分が巻き重なり、接触し合っているので、ワイヤーが摩損、断線しやすい。よって、ワイヤーの寿命が短くなり、生産のコストが高くなる。」ことであると明確に記載されている。


 そして、本件特許の目的は、上記の技術欠陥を解決することである。即ち、前記ワイヤーがスクロールバーで相対的な移動することによる断線を防止するためにワイヤーの間の摩擦を克服することである。


 本件特許の請求項1に開示されている「前記保存クロールバー(2)におけるワイヤー巻線が……、前記貯蔵スクロールバー(1)における巻線より、前記保存スクロールバー(2)における巻線が比較的に低い密度を有する」技術的特徴には、二層以上配線される場合が含まれている。この場合、ワイヤーの間に必ず摩擦が生じ、摩損が発生するので、本件特許の発明の目的が克服しようとする技術欠陥が存在する。また、明細書には、上記特徴をサポートできる技術手段又は技術案が開示されていないので、上記特徴は先行技術と見なされるべきであり、特許の保護内容にならない。


まとめ

 上記判例は、権利侵害で提訴された者にとって、訴訟で逆転する一つの重要な根拠になる。「文理解釈による侵害と認定されたが、発明の目的を実現できないため、権利侵害が成り立てない」という理由は十分であると思われる。

 また、特許権者にとっても重要な参考になる。被疑侵害者の製品が文理解釈による侵害になるとしても、権利侵害の事実が成り立てない可能性もあるので、訴訟を提起する前に十分な分析を行い、適切な対策を講じる必要がある。

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