[中国]使用環境特徴及び機能的特徴の認定, 特許侵害訴訟中の部分判決と仮差止命令について(二)
時間: 2020-07-21 アクセス数:

The Limitation of Application Environment Features in Claim, Determination of Functional Features and Overlap of Precedent Judgment on Cessation of Infringement and Temporary Injunction


ワイパーのコネクタ案件の一審及び最高人民法院知的財産権法廷による二審案件

((2019)最高法民終2号)


郭 金霞(GUO JINXIA) 万 欣容(WAN XINRONG) 

金高 善子(KANETAKA YOSHIKO)小野 義勝(ONO YOSHIKATSU)


4. 請求項の保護範囲について

 

4.1 使用環境特徴の記載

 

使用環境特徴とは,最高人民法院の(2012)民提字第1号民事判決書9)で初めて提起された概念である。この判決書において,使用環境特徴とは,請求項における発明の使用背景又は使用条件を説明するための技術的特徴を指すと定義した。また,請求項に記載の使用環境特徴が特許権の保護範囲に対する限定作用があるか否か,及びどの程度の限定作用があるかについて次のように明確にした。まず,使用環境特徴が特許権の保護範囲に対して必ず限定作用がある。そして,どの程度の限定作用があるかについては,案件ごとの具体的な状況による。一般的に,使用環境特徴について,保護される対象が当該使用環境特徴に「使用されなければならない」まで求めるのではなく,保護される対象が当該使用環境特徴に「使用されることができれば」結構であると理解されるべきである。但し,当業者が特許請求の範囲,明細書及び審査包袋から,保護される対象が当該使用環境特徴に「使用されなければならない」ことを明確且つ合理的に知り得る場合,当該使用環境特徴は,保護される対象が当該使用環境特徴に「使用されなければならない」ことを求めていると理解されるべきである。


使用環境特徴の特許権の保護範囲に対する限定作用について,「司法解釈(二)」の第9条には,被疑侵害の技術案が請求項における使用環境特徴に限定された使用環境に適用できない場合,人民法院は,被疑侵害技術案が専利権の保護範囲に含まれないと認定しなければならないと規定した。上記司法解釈は,使用環境特徴に使用されることができなければ権利侵害にならないことを規定し,被告に非侵害を主張する挙証方法を提供したが,使用環境特徴が特許権の保護範囲に対する限定作用がどの程度あるかについて明確に規定していない。


本件において,使用環境特徴は「アームとブレードの一つの部材との連接及びヒンジ接続のためのワイパーのコネクタ」であり,本件特許の保護対象は「コネクタ」である。保護範囲に対する限定作用から見ると,上記使用環境は必ず「コネクタ」に対する限定作用がある。即ち,「コネクタ」と,「アーム」及び「ブレード」との「連接及びヒンジ接続」の関係を限定した。なお,限定作用がどの程度であるかについて,本件特許の明細書,図面及び特許請求の範囲の記載によると,当該「コネクタ」のU形先端部(32),弾性変形可能な部材(60),安全クラスプロック(74)等の係合構成の何れも,「アーム」及び「ブレード」の具体的な構造と組み合わせて用いられるものであるため,被告製品が本件特許における使用環境特徴により特定した使用環境に「適用できれば結構である」のではなく,保護対象のコネクタが「アームとブレードの一つの部材との連接及びヒンジ接続」に「必ず適用できなければならない」と解釈可能である。


なお,挙証の観点から見れば,「使用しなければならない」との使用環境の基準を採用する場合,本件被告の「被告製品が本件特許の請求項における使用環境特徴に限定された使用環境に適用できるが,その他の使用環境にも適用できる」という主張の注目点は正しいと言える。この場合,被告が証明すべきことは,被告製品が正常に使用される際に,「非標準」のワイパーアームに使用可能である点ではなく,アーム又はブレードと連接及びヒンジ接続せずに使用可能である点である。なぜなら,請求項における「アーム」が標準であると特定されていないからである。仮に,本件特許の請求項において,標準ワイパーアームであると特定している場合,被告の上訴における挙証が認められる可能性が高くなる。


そして,上記司法解釈(二)の規定により,被告は被告製品が本件特許の請求項における使用環境特徴に限定された使用環境に「適用できない」と主張することができる。勿論,本件の場合,被告製品が上記使用環境に適用できることは事実である。

 

4.2 機能的特徴の判定

 

本件のもう一つの争点は本件特許の請求項1に記載の「前記安全クラスプロックは,前記固定部材に対向して延びて,前記固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする閉位置」という技術的特徴が機能的特徴であるか否かという点である。


特許権の保護範囲が不当に広められ,公共の利益に損害をもたらすことを防止するために,特許の権利付与と権利確定段階及び権利侵害判断において,機能的記載は厳しく制限されている。


審査段階において,「特許審査指南」には,「製品の請求項においては,機能的又は効果的特徴で発明を特定することをできる限り避けなければならない。ある技術的特徴が構造的特徴で特定されることができない場合,或いは構造的特徴で特定するより機能的又は効果的特徴で特定するほうがより適切であり,また当該機能又は効果特徴の記載が明細書に規定された実験,操作又は所属する技術分野における慣用手段で直接且つ確実に検証できる場合のみ,機能的又は効果的特徴で発明を特定することが認められる。」と明確に規定されている。しかし,通常,請求項を作成する際に,出願人は請求項の保護範囲を広めるために機能的特徴で当該機能を実現できる全ての実施形態をカバーすることを望んでいる。なお,公衆の利益を保護するために,審査官は「特許法」第26条第4項のサポート要件違反により出願人が機能的請求項を濫用することを制約する。したがって,審査過程で残された「機能的特徴」により限定される請求項は「単純な機能的請求項」であるものではなく,また出願人が審査過程においてサポート要件違反問題を補正するために提出した解釈と限定を侵害係争における「禁反言」の根拠とすることもできる。


侵害判断の段階において,「解釈」第4条には,「請求項において機能若しくは効果を以って記載された技術的特徴について,人民法院は明細書および図面に記述された当該機能若しくは効果の具体的な実施形態,及びそれと均等の実施形態と結び付けた上で,当該技術的特徴の内容を確定しなければならない。」と規定されている。即ち,ある技術的特徴が機能的特徴であると認定された場合,その保護範囲は「明細書における具体的な実施形態+それと均等の実施形態」に限定されるべきである。


しかし,実務において,機能的特徴に対する認定及びその保護範囲の確定が厳格すぎる問題もある。機能的特徴の保護範囲の認定において「具体的な実施形態+均等の実施形態」の解釈規則を直接適用すると,権利範囲が極めて狭く解釈されるため,権利者の利益を損害するおそれがある。したがって,「解釈(二)」には,「当業者は特許請求の範囲のみ読み込むことにより,上記機能又は効果を実現する実施形態を直接且つ明確に確定できる場合,機能的特徴に該当しない」と明確に規定されている。


 本件において,一審は,『上記技術的特徴には,安全クラスプロックと固定部材との方向及び位置関係のみが開示されている。しかも,その方向及び位置関係は固定部材の弾性変形を十分に阻止できない。当業者にとって,安全クラスプロックは保護作用を発揮する保護部材にすぎない。よって,当業者は請求項だけでは,「固定部材の弾性変形を阻止する」機能を実現する安全クラスプロックの関連構造,又は安全クラスプロックと固定部材との配合及び作用関係を直接且つ明確に確定できない。即ち,当業者は,請求項だけでは,「固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする」という機能を実現する具体的な実施形態を直接且つ明確に確定できない。よって,当該技術的特徴は機能的特徴に該当する。』と認定した。また,上記分析に基づき,一審は,「明細書と図面における当該機能若しくは効果の具体的な実施形態,及びその均等の実施形態と結びつけた上で,当該技術的特徴の内容を確定すべきである」と認定した。


これに対し,二審は,『上記技術的特徴は機能的特徴に該当しない。その理由として,上記技術的特徴には,実際に安全クラスプロックと固定部材との位置関係が限定されていると共に,「安全クラスプロックは前記固定部材に対向して延びて」という特定された構造も示唆されている。また,当該位置関係と構造が発揮する作用は,「前記固定部材の弾性変形を阻止し,前記コネクタをロックする」ことである。当該位置関係と構造に基づき,また明細書の第【0056】段落に記載の「コネクタの固定はクラスプロックの垂直側片の内面により保証されている。内面は,爪の外側面に沿って延びているため,爪がコネクタの外部へ横方向変形することを阻止する。よって,コネクタがフック状端部から脱出できない」ことを結び付けて,当業者は,「安全クラスプロックは前記固定部材に対向して延びている」場合,延びた部分と固定部材の外面との間の距離が十分に小さければ,「前記固定部材の弾性変形は阻止され,前記コネクタがロックされる」効果を得ることができる。』と一審と全く異なる認定を下した。


要するに,二審と一審とによる当該技術的特徴が機能的特徴であるか否かの認定について全く異なる見解を下した原因は,最初の注目点がそれぞれ異なるからである。一審の見解では,当該技術的特徴には位置関係の特徴と機能又は効果の特徴のみ含まれているため,当該技術的特徴が機能性特徴に該当するか否かを判断する際に,特許請求の範囲の記載内容により当該機能を実現する実施形態を直接且つ明確に確定できるか否かを判断すれば良いとの立場に立った。一方,二審は,先ず「安全クラスプロックは前記固定部材に対向して延びて」という技術的特徴が,位置関係の特徴を含むとともに,構造の特徴も示唆しているため,機能的特徴に該当しないと認定した。その理由として,「解釈(二)」第8条の規定のように,機能的特徴とは,構造,成分,手順,条件又はその間の関係などについて,それが発明創造において果たす機能又は効果を通じて限定を行う技術的特徴をいう。したがって,ある技術的特徴に発明の技術案に特定された構造,成分,手順,条件又はその間の関係などが限定又は示唆されている場合,当該技術的特徴にはその実現した機能又は効果も限定されているとしても,原則上,当該技術的特徴は機能的特徴に該当しないため,機能的特徴として侵害対比に用いられることもできない。そして,上記原則を前提として,明細書に記載の内容,及び「固定部材の弾性変形を阻止し,コネクタをロックする」という機能的特徴を結び付た上で,上記位置と構造の具体的な内容を明確に確認できる。


従って,本判決においては,構造の説明と機能の説明を同時に含む特徴は機能的特徴と認定すべきではないと認定した。但し,請求項において,特定の構造,成分,手順,条件又はその間の関係等の特徴さえ含めば機能的特徴に該当しなくなるか,或いはどの程度詳細に記載する必要があるかについては,本判決では触れていない。

 

5. 訴訟中の部分判決と仮差止命令について

 

本件のもう一つの重要な争点は,部分判決と行為保全とは請求の内容が同じである場合,如何に処理すべきかということである。

本件において,ヴァレオ社は,提訴後,一審被告の侵害行為が継続し原告の製品の売上に甚大な影響をもたらしており,裁判の長期化が原告の市場シェアに影響をもたらしたと主張し,法院に権利侵害の認定について部分判決を下し,被告の侵害行為を停止させるよう請求した。一審は,原告が提出した証拠によりルーカス社と富可社が共同で被告製品の生産を行い,且つ侵害行為が続いていると判断できたため,ヴァレオ社の請求を支持し,「民事訴訟法」第153条の規定10)により一審法院が設立して以来の初めての部分判決を下した。


ヴァレオ社は一審においても侵害行為を停止させる訴訟中の行為保全を請求し,相応の担保を提供したが,一審はヴァレオ社の請求を処理せず,権利侵害行為を停止させる部分判決のみ下した。なお,一審は訴訟中の行為保全請求を処理しなかったので,二審は上訴を受理した後,当該行為保全請求を管轄,受理することにした。


ヴァレオ社は二審において引き続き行為保全を請求したが,その提出した証拠が損害を被っている緊急な状況であることを十分に証明できず,しかも,二審は,法廷において既に最終判決を下したので,改めて侵害行為を停止せよという行為保全裁定を下す必要はない。よって,二審は,ヴァレオ社の訴訟中の保全請求を支持しなかった。


このように最高人民法院は,判決書において,訴訟中の部分判決と行為保全とについて,内容,機能及び制度設計における共通点と相違点を論述し,また本件における行為保全請求を支持しなかった原因も述べた。これは,特許権者にとって,特許権侵害係争における侵害行為を制止する方式を選択する際に,一定の参考価値がある。

 

6. 終わりに

 

本件において,最高人民法院は,請求項の保護範囲の確定基準について詳しく論述し,使用環境特徴の請求項に対する限定作用と機能的特徴の認定について最高人民法院の判断基準と理論根拠を述べた。


特に,機能的特徴の認定について,最高人民法院は,技術的特徴に構造又はその位置関係の特徴と機能又は効果特徴とが同時に含まれている場合,その技術的特徴が機能的特徴に該当せず,侵害対比に用いられることができないことを認定した。


これらの判断は,今後の類似案件にとって参考価値がある。但し,中国では判例法制度を採用していない点に留意すべきである。さらに,専利審査指南11)には,製品の請求項では機能的或は効果的特徴を用いて発明を限定することはなるべく回避すべきであると規定されている。さらに,審査段階において,請求項に含まれる機能的限定の技術的特徴は,記載された機能を実現できるすべての実施形態をカバーしていると解釈され,機能的限定の特徴を含む請求項に対し,該機能的限定が明細書によりサポートされているかを審査することになっている。従って,出願段階においてクレームドラフティングの際,なるべく機能的限定を避け,製品自身の構成や当該製品を含むシステムの構成によりクレームドラフティングをするほうが良いと思われる。


また,本件において,最高人民法院は,訴訟中の部分判決と仮差止命令との共通点と相違点,関係,及び適用も論述した。特許権者にとって,一定の参考価値がある。


訴訟中の行為保全を請求する場合,即時に侵害行為を停止しないと,権利者に権利者に取り返しのつかない損失をもたらす非常に緊急な状況であることを証明しなければならない。しかも,行為保全の判定が下されると即発効になり,復議期間中でも停止されない。一方,部分判決を請求する場合,損害が継続であることを証明する必要もあるが,その緊急性に対する挙証について,行為保全よりそれほど厳しく要求していない。なお,部分判決は普通の判決より速く下されることができるが,行為保全は遅い。したがって,行為保全を請求するか,それとも部分判決を請求するか,或は両方とも請求するかと選択する場合,「緊急性」に対する挙証能力と,状況の緊急度とを総合的に考慮する必要がある。緊急度がそれほど高くない,或は緊急性を証明できない場合,部分判決を請求したほうが良い。また,本件において,最高人民法院は,二審が行為保全請求の処理期限までに最終判決を下すことができれば,適時に判決を下し行為保全請求を棄却することができると認定した。よって,部分判決と行為保全の両方とも請求すると,法院に速く判決を下すよう促すことができる可能性がある。したがって,原告としては,法院に速く判決を下すよう促すために,部分判決と行為保全の両方とも請求することも考えられる。


注 記(引用文献,参考文献)

1)知的財産権事件の裁判基準を更に統一し,審判の品質と効率を向上させ,司法の公衆信頼性と国際影響力を強化し,イノベーションにより発展を駆動する戦略及び国家知的財産戦略に司法保障を提供するために,最高人民法院は,2018年28日に「最高人民法院による知的財産権法廷における若干問題に関する規定」(法釈【2008】22号)を公布し,2019年1月1日から施行した。その中,2019年1月1日以降の高級人民法院,知識産権法院,中級人民法院が下した特許,実用新案,植物新品種,集積回路配置図設計,ノウハウ,コンピュータソフトウェア,独占など民事事件第一審の判決又は裁定を不服として,上訴を提起した事件は知的財産権法院より審理すると規定した。

最高人民法院は,最高人民法院の各審判廷,北京市高級人民法院知的財産権廷,北京知的財産権法院,上海知的財産権法院,及び各省の高級人民法院から12年以上の審判経験がある裁判官を選出して知的財産権法廷を設立した。第一陣の25名の裁判官は全て修士以上の学位を有し,半分以上も博士であり,また1/3は理工系背景を有し,1/3は留学経験を有する。

2)(2016)滬73民初895号民事判決書の出所https://app.darts-ip.com/darts-web/client/case-results.jsf。

3)ファミリー特許データの出所は欧州特許庁公式サイトであるhttps://worldwide.espacenet.com/?locale=en_EP。

4)2010年に,国務院が「中華人民共和国特許法実施細則」に対する二回目の改正において,独立請求項に必須な技術的特徴が欠如することに関する元の第21条第2款を第20条第2款にした。

5)「中華人民共和国特許法」第59条により,発明又は実用新案の特許権の保護範囲は,その権利要求の内容を基準とし,説明書及び付属図面は権利要求の解釈に用いることができる。

6)「最高人民法院による特許権侵害をめぐる係争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』第2条により,人民法院は,請求項の記載に基づき,明細書および図面を読み終えた当該分野の一般的な技術者が持っている請求項に対する理解と結び付けた上で,専利法59条1款に定めた請求項の内容を確定するものとする。

7)「最高人民法院による特許権侵害をめぐる係争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」第8条により,機能的特徴とは,構造,成分,手順,条件又はその間の関係などについて,それが発明創造において果たす機能又は効果を通じて限定を行う技術的特徴をいう。ただし,当該分野の一般的な技術者が請求項の閲読のみを通じて,前述の機能又は効果の具体実施形態を直接且つ明確に確定できる場合はこの限りでない。また,本条第2款により,明細書及び図面に記載された,前項でいう機能又は効果を実現するために必要不可欠な技術的特徴に比べて,被疑侵害技術案に対応する技術的特徴を,基本的に同一の手段によって同一の機能を実現し,同一の効果を達成し,且つ当業者が被疑侵害行為の発生時に創造的労働を経ずして連想できる場合,人民法院は,当該技術的特徴と機能的特徴が同一又は均等であると認定しなければならない。

8)「最高人民法院による中華人民共和国行政訴訟法の適用に関する解釈」第161条により,当事者が一審判決を不服とし上訴を提起した案件について,二審人民法院が案件を受領する前に,当事者は財産を譲渡,隠蔽,販売又は破壊する行為を存在し,財産保全の措置が必ず必要である場合,一審人民法院が当事者の請求又は職権により措置を取る。一審人民法院は適時に保全裁定を二審人民法院に報告・送付しなければならない。

9)(2012)民提字第1号民事判決書

10)「民事訴訟法」第153条により,人民法院は,事件を審理する場合において,そのうちの一部の事実が既に明らかとなったときは,当該部分について先行して判決することができる。

11)専利審査指南 第二部分

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