知的財産権侵害訴訟でWeChatにおける資料を賠償金の計算根拠とすることができる
——DSMと新郷帝斯曼公司等との「帝斯曼」「罗维素」商標権侵害案
実践において、賠償に関わる証拠の収集が難しく、賠償金が低いことは、いつも知的財産権侵害訴訟の権利者を困らせている。権利者の侵害による実際の損失、また侵害者の侵害による利益、登録商標ライセンス料を確定しにくいので、通常、知的財産権侵害訴訟において法定の賠償額により判定される。また、法廷賠償を適用できる場合でも、権利者は裁判官の参考する根拠としてなるべく賠償に関わる証拠資料を収集する必要がある。特に、ネット時代において、第三者のプラットフォームが販売の記録を客観的に保留しているので、これらのデータ資料を重要な参考根拠として活用すれば賠償を求めることに有利である。ここで、DSMの「罗维素」「ROVIMIX」商標権侵害案をもって、賠償の計算根拠とWeChatにおけるネット店舗等のインターネットプラットフォームでデータ資料を収集する要点を紹介する。
案件概要
オランダの総合化学メーカーのDSMは動物栄養、人間栄養、化学原料及び医薬の生産・開発を業とするグローバル会社であり、多くの分野で世界トップレベルの技術を有する。その製品が動物飼料、食品、サプリメント、及びパーソナルケア等のに広く使用されている。また、その「罗维素(ROVIMIX)」商標が動物栄養、動物飼料業界で高い知名度と影響力がある。
DSMは、調査により、河南省三星牧業科技有限公司(以下は、三星牧業と略称する)はWeChatアカウントを登録し、WeChatで「帝维素(Dvimix)」豚用飼料を販売し、またWeChatのモーメンツで宣伝していることがわかった。その販売している製品の生産者は新郷市帝斯曼飼料有限公司(以下は、新郷帝斯曼と略称する)であり、その包装に「帝斯曼」と「XXDSM」が記載されている。
新郷帝斯曼はDSMの子会社でもなく、DSMの許可した代理商でもないのに、同じ商品の動物飼料でDSMと同じ又は類似する商標を無断で使用している。したがって、DSM商標の権利者と管理人である帝斯曼知的財産権資産有限公司(以下は、帝斯曼公司と略称する)は、三星牧業と新郷帝斯曼の上記行為に対して、工商に摘発(摘発された後、新郷帝斯曼は社名を新郷市牧易達飼料有限公司に変更した。)した後、新郷市中級人民法院に商標侵害訴訟を提起した。
本件侵害訴訟において、賠償額について、DSMは、「罗维素(ROVIMIX)」商標の中国における使用許諾契約、雑誌等の刊行物における広告宣伝、販売契約及び領収書(特に河南現地の販売契約及び領収書)、河南省で権利行使した司法記録等の知名度に関する証拠を提出した。これらの証拠により、DSMは、被告が「帝斯曼」及び自社の複数枚の商標(互いに関連性がなく、単独でも顕著性が非常に高い複数枚の商標。下記表1の通りである。)を故意的に模倣又は無断で使用している悪意を強調した。
被告の売上と取得した利益に関わる証拠について、実店舗における売上が被告自身に保持されているため、原告は入手することができないが、ネット店舗(Wechat店舗)における販売情報を収集することができる。したがって、訴訟を提起する前の証拠収集段階において、原告は、公証により被告のWechat店舗における被疑侵害製品の販売価格、販売量及び在庫量等の詳細データを収集した。また、これらの詳細データを纏めて統計したところ、売上が10万元にも達したことがわかった。
法院は本件を審理した後、以下のように判決を下した。原告の「帝斯曼」と「罗维素」商標が長年の使用により高い知名度を誇ってきたため、被告が「帝斯曼」、「XXDSM」、「帝维素」、及び「Dvimix」を使用することは原告の商標専用権を侵害した。しかも、被告は主観的な悪意がある。DSMが提出した新郷帝斯曼の三つの商品のWechat店舗における販売価格、販売量及び在庫量等の証拠から見ると、被告の侵害情状が比較的に深刻する。したがって、本件登録商標の知名度、新郷帝斯曼と三星牧業の経営規模、期間、範囲、地域、被疑侵害製品の種類、主観的な悪意及びDSMが侵害を制止するために支払った合理的な支出等の要素を総合的に考慮した上で、被告が原告に合計30万元の賠償金を支払うことを判定した。
コメント
本件は典型的な商標権侵害訴訟である。権利侵害の認定について異議がないため、要は如何に比較的に高い賠償金を求めるかということである。賠償金は、訴訟の支出と経済損失をカバーできるとともに、侵害者を強く打撃することもできる必要がある。
万元にも達したことがわかった。
本件において、原告が収集したWechat店舗における販売データが大きな役割を果たした。河南省新郷市の収入レベル、及び侵害の継続期間(3ヵ月)などの要素を考慮すれば、30万元の賠償額は侵害者を実質的に打撃することができると思われる。なお、Wechat店舗、淘宝等の第三者プラットフォームにおいて証拠を固定する際に、下記三点に注目する必要がある。
第一、ネット店舗の経営者を示す情報。これは被告と責任の確定に関わる。例えば、本件において、侵害製品の生産者は新郷帝斯曼であるが、ネット店舗の情報から、店舗の経営者が三星牧業であることがわかった。よって、新郷帝斯曼と三星牧業の両社を共同被告とした。また、この両社が株主が同じであり、しかも協力関係があるため、法院は両被告が連帯賠償責任を負うことを判定した。これは、判決を執行する際に、非常に重要なことである。なぜなら、三星牧業は新郷帝斯曼より経済実力が高いので、新郷帝斯曼の一社のみより両社共同で賠償金を支払うのがより容易からである。
第二、全ての侵害製品の種類及びその詳細データを示す情報。侵害製品は一つだけではない場合、全ての製品のリンクを開いて、各製品の詳細データ(販売価格、販売量及び在庫量等)を取る必要がある。これらのデータにより売上及び侵害規模を算出することができ、被告が取得した利益を証明する有力な証拠を把握できる。
第三、ネット店舗におけるカスタマーレビュー。最初のカスタマーレビューから侵害製品販売開始の時点を把握し、侵害行為の継続期間を証明する証拠として使用する。また、カスタマーレビューから消費者に混同させた情報を抽出し、消費者の誤認を招いた又は不良影響をもたらしたことを証明する。例えば、「何々ブランドであると思ったのに、買ってからはじめてそのブランドではないことをわかった」、「この製品は何々ブランドの製品より品質が遥かに悪い」などの口コミ。